読書狂時代

2016.07.04

読書狂時代
連載<読書狂時代> 第三回  / 書を持って、街へ出よう

書を持って、街へ出よう

古きよき時代、私にとって電車の中は最高の読書場所でした。車輪から伝わる心地よい振動、ページの上を流れて行く光と影の優しいコントラスト、少しだけ緊張感のある静けさ。読書に没頭するあまり目的地で降り過ごしてしまい、慌てて次の駅で降りるなんてこともしょっちゅうで、反対向きの電車が来るのを待つ間、ふと季節の移ろいを感じたり……。
が、最近はとにかく読みづらい。そう、スマートフォンの画面を叩く指の動き、カラフルなバブルやらキャンディやらがさく裂するパズルゲーム、真っ白な光を放って輝くタブレット。本を読む視界に入って気が散ってしょうがない。両側から挟まれた時はもう諦めて、私も携帯を取り出して無為にインスタを眺めたりしています。

私は読書用の部屋を借りているので、普段はそこで読書をしていますが、たまには外で本を読みたい気分の時もあるのです。が、なかなか理想的な場所は見つからない。例えば、クラウドファンディングでパトロン数の日本新記録を打ち立てて渋谷にオープンした、森の図書室。実は私も少額ながら支援した一人なのですが、実際に行ってみた感想はとにかく本が読みにくい場所だなと。オープン当初のことなので状況は違っているかもしれませんが、90年代のビルボードランキング的なポップソングやらヒップホップが大音量で流れ、こだわりのないライティングもページに反射してひどく眩しい。そして何よりキュレーションされた感の薄い本のセレクションとストーリー性のない並びにガッカリしたものでした。

並びに関しては、本との偶然の出会いのために敢えてランダムに置かれているとのことですが、多分本当にいい本と出合いたいのならば神保町の古本屋さんとかインディペンデント系の本屋さんに行かれることを強くおススメします。ただ森の図書室には、一万円以上支援した方が選んだ本が置かれた、『誰かの一番好きな一冊が並ぶ本棚』というものがあり、それは一見の価値アリの大変素晴らしいセレクションなのです。『茨木のり子の詩集』なんかを選ばれた明らかな本好きの誰かさんは、この場所についてどう思っているのか聞いてみたい。が、ネットでの評判を読んでいるとネガティブなものはほぼほぼないのと、表参道ヒルズに二号店がオープンしたとのことで、皆さん満足しているよう。

ブックカフェ=そもそも本を読まない人のための場所

そもそも、ブックカフェというのは本好きが行く場所ではないのかもしれません。読書狂を自負する方たちだったら、多分読みたい本は家に山積みになっているはずで、ランダムに並べてある本よりもカバンの中に入っている本を読み進めたいはず。また、カルチャー誌などを読んでいるとブックカフェの紹介には「大好きな本に囲まれて過ごしたい」などというフレーズが枕詞的に使われていますが、いや、本好きだったらすでに自宅で本に囲まれていて、置き場所のなさと地震の恐怖とそろそろ床が抜けるのではないかという心配と戦っているはずです。

よって、ブックカフェは「なんとなく本っていいよね」とか「本読んでる私が好き」的なイメージとしての本好きの方のための場所なのかもしれません。(そう考えると、ブックカフェの初心者向けなセレクションはむしろ正しいのでしょうか。)

そんななんとなく本が好きな方たちにおススメなのが、日本文学館に併設された BUNDAN COFFEE & BEER。リラックマカフェとかマイメロディーカフェの本バージョンで、AKUTAGAWA や OUGAI なんていうブレンドコーヒーが飲めたり、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』に出てくる食事を再現したメニューがあったりします。しかも普通に美味しいです。自然光を取り入れた店内はいい具合にレトロな雰囲気で素敵ですが、ゆっくり本を読むというよりは飲食をする場所という感じ。
しかし、残念なのは本棚。「マニア垂涎の稀少本から日本文学史を彩る名作まで、 店内には約2万冊の書籍があり、どの本も閲覧が可能」とのことですが、あまりきちんと棚が管理されていないせいか、並びが雑然とした印象で、やはり愛情が感じられないのです。また本棚とテーブルが近いので、他のお客さまがいるとそもそも本棚に近づけません。あ、でも、芥川賞作家、又吉直樹先生のサインは要チェックです。

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