読書狂時代

2016.07.04

読書狂時代
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読書狂も満足できるブックカフェはあるのか?

この記事を書くために、片っ端からブックカフェに行ってみたのですが、とてもよかったのが神保町のブックカフェ二十世紀。

古書店 @ワンダー(アットワンダー)が経営するカフェで、店舗の二階にあります。本の読みやすさはとにかくピカイチで、椅子も座り心地がいいし、電球色の蛍光灯が本のページとよく馴染み目に優しい。結構な音量で音楽が掛かっているのですが、スピーカーの配置がいいのか全然うっとうしくないのです。
コーヒーは普通においしく、ブレンドで280円という非常に良心的なお値段。ちなみに絶版の岩波文庫を探しに来るような読書狂の皆さんの姿(とその個性的なファッションや立ち振る舞い)を眺めるのも面白いです。シャレオツ感は皆無なので悪しからずですが、ここはこれから通うことになりそう。ワンランク上のクオリティの高い読書が出来ます。

ちなみに本屋さんに併設されたカフェがいいのかというとそういうわけではなく、例えば下北沢のB&B。行くたびに店の半分を仕切ってイベントを開催しているのでビールを飲みながら本を読むどころか、本もちゃんと見ることができないというのは下北沢で飲んでいるとよく出る話。そもそも本屋としてどうなんだという感じですが、本の売り上げだけでは店が成り立たないそうなので文句を言うのは無粋というものでしょう。
池袋の天狼書店も、黒い紙でカバーを隠したうえにビニールの袋詰めにして、何の本か分からないけど面白さは保証済み、という本を売る、本屋さんとしてはとても面白い試みをしていますが、無理矢理作ったようなカフェスペースは狭く、椅子の座りにくさと目に直接刺さって来るようなライティング、そして店員さんたちのおしゃべりが気になってあまり落ち着けませんでした。
東京堂書店に併設された Paper Back Café もよく雑誌で取り上げられていますが、本当に何も変哲がない。本屋の一角に飲食ができるスペースを作りましたという感じ。あとよく分らない雑貨が置いてあるのはどうなんだろう。ドリンクが安いのはいいですが、どうせだったら周辺の神田ブラジルやさぼうるなんかでゆったりと読書を楽しみたいです。

そんな中で、超おすすめしたいのが荻窪のTITLE。店の奥が8席のカフェスペースになっていて、そのスペース自体は商店街でおばちゃんがやっていそうな町の喫茶店風で特に変哲はないのですが、いかにもこだわりがありそうなコーヒーがとてもおいしい。そしてなんといっても本屋さん自体がとにかく素晴らしく、コンセプトがしっかりした愛情のあるセレクションに思わず時を忘れて本を眺めてしまいます。

三十分ぐらい滞在していたのですが、その間、店主の辻山良雄さんがずっとフロアに立ち、本の並びをチェックしている姿にも感動。オンラインばかりで本を買ってないで、たまにはちゃんとこういうところに来て本を買おうと思ったり。こんな素敵な本屋さんをサポートしないなんて読書狂失格です。席数が少ないのであまり長居はできませんが、本に対する愛で溢れた空間でする読書はまた格別なものだと感じました。

読書狂に必要な場所

色々な場所を訪れ、あったらいいなと思ったのは、ブックカフェではなく、ブックラバーズカフェ。
まず座り心地のいい椅子。目に優しいライティング。そしてこだわりのあるコーヒーと最高においしいサンドイッチやケーキ。私語厳禁だと緊張して逆に居心地が悪いので、大声でしゃべる空気の読めないお客さんに無言で冷たい視線を送る店主。そしてPC持ち込み禁止で、携帯の電波が入らなかったりしたらもう完璧です。あと長居をしても罪悪感を覚えないような値段設定なり工夫があってもいいかも。そしてあえて本棚はなし。そんな場所で読みたい本はなんだろう、なんて妄想が膨らみます。

が、例えそんな場所があったとしても、やっぱり私は電車のなかで本が読みたいのです。

「電車のなかで一冊の文庫本を熱中して読んでいた若者が一瞬窓から外の風景を見て、魂をうばわれたように放心している。僕はそうした様子を見るのが好きだ。かれは、または彼女は、いま風景を見ているにはちがいないが、それまでの読書によって洗われた感受性、活気づけられ勢いをあたえられた心の動きで、風景を見ているのである。」(『新しい文学のために』大江健三郎)

本読みだったら誰でも体験したことがあるであろうこの感覚。過去の物として失われてしまうのはあまりにも寂し過ぎる気がするのです。

text : 今泉渚
協力 : ブックカフェ二十世紀


今泉渚
ニューヨーク大学文学部卒業。外資系ブランドのPRを経て、独立。現在はフリーランスPRと翻訳家として活躍する。夢は書店で同じ本を手に取ろうとした人と恋に落ち、結婚することだが、少しでも多くの読書時間を捻出する為に本はもっぱらオンラインで購入している。読書感想ブログ『本のPR』ではジャンルにとらわれない古今東西の名作を紹介。


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