ARTIST SELF-PRAISE 作家自画自賛

2015.08.09

ARTIST
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アーティスト自身による
自画自賛 Vol.09
HIRO KIMURA

矢沢永吉、夏木マリを筆頭に、渡辺謙、浅野忠信、内田裕也など、唯一無二の個性を発揮するセレブリティの美々なる瞬間を捉えてきたフォトグラファー・HIRO KIMURA氏。目の前に対峙する人の本質的な魅力を瞬時に掴み取り、誰も見たことのないその人の真新しい一面を次々と魅せてくれる魔法使いのような男だ。「この人の前では、どれだけ着飾っても、嘘はつけない。すべてはお見通し」―優しくも鋭い眼光で見つめられたら、誰もがきっとそう感じるだろう。

そんな彼が、満を持してお披露目する初個展のテーマは、アメリカとの国交正常化に沸騰中の国「CUBA」。大盛況のうちに幕を閉じた今年5月22~24日の渋谷「Gallery LE DECO」での展示を皮切りに、8月2日は、同氏の母校でもあるバンタンデザイン研究所の大阪校校舎、8日~22日は名古屋市の千種のギャラリー&ブックショップ「C7C」にて開催。

建物あり、ヴィンテージカーあり、市井の人たちの姿あり。熱のこもった写真には、不思議と涼しげな空気が流れている。ポップというひと言だけでは言い切れない、撮り手のさまざまな想いが含まれた本展覧会の魅力について、HIRO氏本人に語っていただいた。

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──なぜ、キューバだったのですか?

葉巻を撮影する取材で渡航したのですが、“スイッチ”が入ってしまって。まったく予定していなかったことでしたが、気づくと、何かに駆り立てられるようにシャッターを切り続けている自分がいました。10日間で3000枚くらい撮り下ろしたと思います。同じ撮るなら、いわゆるキューバのイメージを静かに壊すというか、既存のイメージをなぞらえるのではなく、「今」のキューバを捉えて、コンテンポラリーにしたかった。それが今回、意としたところです。

──ゆえに、観る者を涼やかな気持ちにさせてくれるのですね。

「ほとばしる生命力とその裏側にある底知れぬ影」。これが僕の感じたキューバの魅力です。誤解を恐れずに言うと、共産国特有の湿っぽさや俗に言うギラッとした感じを露わにするよりも、その生命力や影を僕なりの視点で美しく切り取りたいと思いました。抜けるような青い空の下、街を歩けば、目の醒めるようなブルーやピンクのカラフルな建物が立ち並び、ヴィヴィッドなレッドやイエローやグリーンに彩られた車が行き交う。ベッドシーツなのか、ソファにかける布なのか。窓からは長い布がいくつも垂らされて、風に揺れていたりする。目を奪われる情景がそこかしこにありました。

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──ノーベル賞作家・アーネスト・ヘミングウェイのシリーズが印象的です。

キューバは、ヘミングウェイが、人生の約3分の1にあたる22年間を過ごした街です。生前、彼が住んでいた「フィンカ・ビヒア」という邸宅は、本人の遺言によってキューバ政府に寄付され、現在は博物館として一般に公開されています。中には入らず、窓から覗くという形での鑑賞ですが、たくさんの窓があり、全て開放されていて、彼が確かにここに居たという温もりを至るところで如実に感じました。8000冊の蔵書、名作「老人と海」を書いた書斎やタイプライター、亡くなる直前に壁に書いた数式などを眺めていると、静かに諭されているような気がして…

──何と諭されている気がしたのですか?

「生温いところにいたら、ダメだろ?表現できないだろ?」と。写真しかり、絵を描いたり、物を書いたり、何かを自分で生み出す人やアーティストなら分かると思うのですが、居心地が良すぎる環境に長くいすぎると、新しい発想やアイデアは、おのずと生まれにくくなります。そうでない人もいるかもしれませんが、僕自身は、環境から刺激や影響を受けるタイプ。精力的に作品を生み続けたヘミングウェイが愛したキューバには、今回僕がそうであったように、人を駆り立ててやまない神秘的で、強い力があるのだと思います。ヘミングウェイが遺した「Everyday is a new day」という言葉には、惰性を好むのではなく、常に進化し続けた人の静かな情熱を感じます。

──密かに、裏テーマがあったそうですね。

展覧会に足を運んでくれる方たちはもちろん、写真集を手にとってくださる方には、ヘミングウェイになった気分で観てもらえたら嬉しいです。そして、大それたことを言うようですが、もしヘミングウェイ本人に会えるとしたら、願わくは、ぜひ感想を聞いてみたいですね。「これが僕の目で見たキューバですが、どう思いますか?」と。

──一年ほど前に取材させていただきましたが、今回、さらに研ぎ澄まされた印象を受けました。

ありがとうございます。実は、キューバから帰国したあと、サーフィン中に事故に遭って、顔面に大きな傷を受けたんですよ。今でこそ、こうして笑ってお話できますが、もし、1センチずれていたら、死んでいたかもしれない致命的な事故でした。やりたいことはどんどんやっていく。発信できることはどんどん発信していこう。入院中にそう考えて、今回、展覧会を開催するに至りました。心新たに、これからも定期的に作品を発表していこうと思います。キューバに関しては、シリーズ化していきたいですね。

(Text : 岸 由利子

HIRO KIMURA Phorographer
1977年生まれ。1997年ニューヨークへ渡り、スタイリストとして活動開始。
約10年の活動を経て2008年フォトグラファーに転身。操上和美氏に師事。独立後再びNYへ。現在は東京に拠点を移し、広告やファッション誌を中心に第一線を走り続けている。最近では映像の分野へも活動の場を広げている。


HIRO KIMURAオフィシャルサイト
www.hirokimura.com

CUBA展 2015年8月8日~22日 (名古屋 C7C)
http://c7c.jp/cuba-hiro-kimura-exhibition/

Photo Zine “CUBA” HIRO KIMURA
2015.05.22(Fri) Release
UNKNOWN BOOKS&PRINTINGS ¥2,500(税抜き)
Book Store&Online Shop
*Limited Publish
http://www.unknownbooks.jp

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