TOKYO alive 東京生活向上指南

2015.07.09

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東京生活向上指南 Vol.10 [最終回]
ランナーズハイの真実!? 僕たちが走る理由

走ることが好きだと人に言うと、こう聞かれることが度々ある。
「ランナーズハイって本当にあるの?」「それってどんな感じ?」
走るなんて、苦しくて辛いこと。そんなことを続ける秘密がどこかにあるはず、と言わんばかりに。

ランナーズハイは確かにある。そしてとても不思議な体験だ。
ランナーたちはこう語る。
「周りの景色全体に白っぽいもやがかかったみたいになって。脚を動かしている感覚がなかった。そう、音も何も聞こえませんでした。死んだらこんな感じなのかな、と。暑さ、つらさ、なにも感じなくて、いつまでも走れてしまいそうな気がしました。そのときはやっぱりラップが速かったようですが、現実に戻るとまだ先があり、あれ? みたいな。そのままずっと続いてゴールできたら幸せ! ですけど」
彼女はこのフルマラソンでちゃっかり目標のサブ4を達成した。

「10キロを過ぎたくらいにランナーズハイになる。短い距離や高速(キロ4分くらい)で走っているときはなりません。ランナーズハイに入ったときは“無の境地”。時間にすると3分くらいだけど、後で時計を見るとその間はスピードが上がっている。一緒に走ったことのある人は知っていると思うけど、急に無口になったとき、急にスピードアップしているときがハイに入っているとき」
こうしていつも僕はこの先輩に無言のまま置いていかれることになる。

他にはこうしたコメントも。
「普段は肩甲骨や骨盤、腕の振り方など、色々と頭で考えたり意識しながら動かしているのですが、ランナーズハイの状態になるとなにも考えずに手足が軽く動きます」
「ハイになると音楽が止まっていても気がつかないことがよくあります。同じコースを走っているとよくありますね。登りでも加速してたりします」

僕の場合は暑くてたくさん汗をかきながら走っているときに入りやすい。ふと太陽の光、景色が綺麗に見えて、風が気持ちよくて、多幸感に包まれる。ずっとこのままでいたい、このまま走り続けたいと思う。走っている感覚が薄くなり、身体は自動操縦で動いている感じ。でもやがてその時間が去ると、急に身体が重くなり、これまでにないような疲れがどっと押し寄せる。そう、終わりは必ず訪れる。
“ずっとハイでいられたらいいけど、夢から覚めると現実が待っている”

だから大事なレースのときには気をつけなくてはいけない。ハイになって飛ばし過ぎれば、その後には必ず付けが回ってくる。着実なペース配分が重要なフルマラソンでは致命的な失敗につながることもある。
でも、最高の時間と最低の時間が繰り返されるウルトラマラソンやロングトレイルでは、また別かもしれない。最高の時間に救われる。いや、それがなければ、やってられない。
“最低が訪れるのがわかっているから、最高にしがみつく”
「トレイルランニング – #SufferBetter:パタゴニア」
そう、まさに。

トレイルランナーの山本健一さんは、その状態をこう言った。
「疲れがなくなって、もう無敵の状態(笑)。スーパーマリオのスターを取って、川も関係ないような。あのメロディがなっているような(笑)。湿地帯なのに、スムースに滑らかに。それはもう本当に気持ちよかったです」
(onyourmark「山本健一 アンドラ・170km 未知への挑戦 #03 人生のようなレース」)
この時のレースの模様はTBSの「情熱大陸」で放映され、ランナーの間で話題となった。アスリートがレース中にランナーズハイに突入するシーンを記録した映像は、視聴者(日曜の夜に、「さぁ、明日から仕事がんばろう」と思いながらTVを観ていた人たちだ)を驚かせたに違いない(Number Do「ランナーズハイの謎」に詳しい)。

走ることで、身体と意識に起こる変化。走りはじめは苦しいが、やがて酸素の供給量が追いつき、身体が楽に、気持ちよくなる“セカンドウインド”と言われる状態に入る。そして、βエンドルフィン、内在性カンナビノエイドが脳内で大量に発生するからか、まれに、突然に訪れるランナーズハイ。さらにその先には あの“ゾーン”があるのか(ゾーンについて考えると、深く入りすぎてしまう。トレイルランナー.jp「スコット・ジュレク interview2 ZONEの正体 ~Identity of the zone」はいい記事だ)。

走ることの辛さも気持ちよさも、どこか違う世界に行ってしまうような不思議な感覚も、極めて個人的な体験のはずなのに、なにかとつながっている。いっしょに走る仲間、その瞬間の光、風、自然、全体的ななにか大きな存在と。

そんなことを感じられるから、走ることはやめられない。

(Text: Yasutake Iijima

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