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2016.10.21

vol.13 TOKYO FOOD
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粋でいなせな江戸のすし
店と客の阿吽の呼吸


「すしカルチャー」ド素人の私、今住む東京のすしだって本当のところあまり知らないのだ。日本人としてこれでいいのか!?というわけで、今回はグルメマンガの巨匠 寺沢大介先生と料理漫画研究家の杉村啓さんに「すしカルチャー」について談義いただいた。

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粋でいなせな江戸のすし
店と客の阿吽の呼吸



──最近のすし屋事情 特長的なことはありますか

寺沢:昔はすしは出前で取るもので、滅多に食べに行くことなんかなかったですよねえ。お客さんが来たときなんかに近所のすし屋に注文して家で食べることが多かったんです。だから、人に「どこかうまいすし屋知らない?」と聞かれてもいつも出前を頼んでる近所のすし屋しか知らない、そんな風だった気がするなあ。

杉村:そうだったかもしれませんね。それに、今のようにネットで検索できる時代でもありませんでしたから、人づて以外にいい店の情報を知る方法がほとんどありませんでした。近所のすし屋さんで出前をとるので、わざわざ電車に乗って食べに行くとかは、よほどのことがない限りなかったですよね。それが今は口コミ評価の高い店にわざわざ行きます。すし屋に限らず、いろんな食でその現象が起こっています。それもあいまってか、中間層のすし屋が少なくなってきた気がします。

寺沢:昔は東京のすし屋はラーメン屋よりも多かった。近所にふらっと寄れる店があったもんです。かしこまった格好じゃなくても行ける、それこそ、ラフなシャツとサンダルでも入れちゃうようないわゆる普通の店がいくつもありました。だけど、手ごろな価格で食べられるデリバリーすしや、回転すしが登場。高級なすし屋と安い回転すし等の両極に分かれた客層のせいで、普通の中間層のすし屋が減っていったわけです。この辺のことも『将太の寿司2 World Stage』(講談社)ではテーマにしていました。ちなみに、この間のところのニッチに入り込んだのが、グルメ回転すしですね。

あと、客には客の作法があると思います。以前、仕事でフランスの星付きレストランに入ったことがあるけど、みんなすごくフォーマルな格好で。ところがこっちはラフな格好で行っちゃって、あれは申し訳なかった。取材だからすしの写真とかもパチパチ撮るでしょ。すると、マダムがちらっとこちらを冷ややかに横目で見るんだよね。あの目が忘れられないな。もちろん、店に許可を得て取材したんですが……。
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杉村:先生の場合、それは取材という特別なことで、店側も分かっているわけですから問題はないと思うのです。でも、近頃は料理の写真を撮るのが日常的になりすぎて、いろいろとマナーを守らない人も増えていますよね。フラッシュを焚いて写真を撮ったり、出された料理をすぐに食べなかったり。特におすしは出されてすぐに食べた方がおいしいので、すぐに食べて欲しいところです。

そういえば、こんなことがありました。日本酒ってお店のカウンターの中に、ガラスドアの冷蔵庫に入れているところがあるじゃないですか。それを見た「いちげんさん」らしき人が「え、すごい!こんなのあるの。あ、あっちも見せて」とカウンターの中まで入って写真を撮ろうとした。店の人が「お客さん、それはちょっと困る」と言うとムッとして、口コミサイトに「珍しいお酒があったので写真を撮りたかっただけなのに、ものすごい勢いで止められた!」なんて書き込みがされたのです。こういう話は非常に残念です。

寺沢:それは全く作法を守れていない客ですね。客には客の作法があると同時に、店には店の作法があると思います。客と店側の阿吽の呼吸というか。すし屋でも、常連との差別を明らかにする店がありますが、あれは少しいやだなあ。常連さんへの図らいは、しのぶようにしていただきたい。実際そういう粋な店が東京にはあります。大将が何も言わずに常連さんの前に珍しいネタのすしを出す。受け取った客の側も「おっ」と思うが口には出さずにちらっと眼を大将に向けて珍しいねって顔をする。そういう粋なやり取りがある店ってあるんですよ。

産地にいいネタがあるわけではない
東京が全部持ってく問題



──東京と関西、ネタの好みに違いがありますよね

寺沢:すしネタの好みは違いがありますね。私は関西生まれなので分かるのですが、ある時、関西のすし屋に修行に入った関東人が「うお持ってこい」と言われて分からなくて怒られたという話がありました。関西で「うお」と言えばタイのこと。なんせ、関西は白身がすしネタの王様。マグロはそれほどの地位ではない。ところが、東京ではすしといえばマグロでしょ。消費量も多いから、いいマグロは全部東京にあるなんて言われるくらい集まってくる。

杉村:東京が全部持ってく問題ですよね。意外とその産地にいっても地場にはいいものは残っていない。なぜなら、東京がいいものはいくらでも欲しい、あるだけ持ってきてと言うからです。取引価格も東京は良い値段で落としてくれますから、そりゃあ、流れてしまいます。
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寺沢:でも、頑張っているところもある。最近は全国チェーンじゃない地域密着型の回転すしなんかが出てきてもいる。地元の獲れたての魚を提供する店で、店によっては生け簀があるところもある。値段はもちろん東京より安く食べられる。地方から東京に進出して成功している回転すし屋もある。東京では中間層のすし屋が減った分、そういったグルメ回転すしが増えている気がするな。

―江戸前すしにもいろいろあると思うのですが、何を頼んだら”通”でしょうか

寺沢:コハダなんかいいんじゃないですかね。職人の手が加わったネタは、お店ごとに味わいが違うこともあるし、味つけもその中でもいろいろと工夫できるんですよ。行きつけの一軒になった店では一日前に漬けたコハダと二日前に漬けたコハダ、三日前のコハダと三つ出してくれて、「どれがお好みですか?」と聞いてくれました。「二日目のが好きだ」と答えると、次に来た時からはコハダは二日目のを必ず出してくれるようになった。こういう客とのやり取りができる店っていうのは、何度でも行きたくなるもんですよ。

杉村:職人の技を堪能できるネタですよね。


外国人のために、すしの食べ方コンテンツを充実させるべき!



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──外国人観光客の増加で日本のすしはどうなると思われますか

杉村:そうですね。僕はいま京都に住んでいまして、京都にもたくさんの外国人観光客がきています。そういった方達をたくさんの飲食店で見かけると面白いことが分かりました。どうやら彼ら、食券のある店は助かるようなんです。メニューを見て口頭で注文するのは難しく感じるようで、いろいろな定食が食べられる「やよい軒」なんかは、ホテルの近くは特に外国の方でいっぱいです。

寺沢:それは面白いね。

杉村:すしも同じだと思うんです。日本語のメニューを見ても分かりにくいと思うので、まずは英語など他国語対応が必須ではないかと。でもすし屋さんが言語を今からたくさん覚えるのは現実的ではないのもわかります。だとしたら、タッチパネル式の注文メニューのある回転すしに、英語やスペイン語などのメニューをつけ、そこに外国人観光客向けのすしの食べ方コンテンツがあればいいと思うんです。

寺沢:やっぱり店と客との阿吽の呼吸みたいな文化は崩されたくない。となると、客も客で作法を練習した方がいいのはありますね。醤油をやたらジャブジャブつけないとか(笑)「こんな小さいもん食べただけでこの値段!高い」と文句をいう外国人観光客がいて困ったなんて話もすし屋で聞いたことがあるから、“ここまで分かったらちゃんとしたすし屋へ!”みたいに勉強できるものが必要なのかもしれないな。むしろ、1枚にまとまったマンガとかでもいいのかもしれない。


杉村:それこそ先生の出番では!



お二人の“通”な話を聞き終えた私は、さっそく行きつけ(にしたい)すし屋へ行った。いきなり出てきたのはコハダ。うん、この店、やはりなかなかやるな。お二人の話しの聞きかじりでまんまと“通”になった気分になれたのだった。

(Text: ジョーキョーマダム)
(Photo:栗原美穂)

寺沢大介 (てらさわ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。
甲陽学院中学校・高等学校、慶應義塾大学文学部出身。
1985年、「フレッシュマガジン」にて『イシュク』でデビュー。
1986年に連載された『ミスター味っ子』が大ヒット、アニメ化。
以降、料理漫画を中心に、様々な作品を手がける。
1988年『ミスター味っ子』で第12回講談社漫画賞を受賞。
1996年には『将太の寿司』で再び第20回講談社漫画賞を受賞する。
主な作品に『ミスター味っ子』『将太の寿司』『喰いタン』など。

今回、余すところなく江戸のすし文化についてお話しくださった寺沢大介先生。30+1周年記念の原画展は銀座のCHEEPA`S GALLERY(チーパズギャラリー)にて9月10日〜10月10日までの1ヶ月間行われました。 http://ajikko-shota30.grinship.com/

杉村啓 (すぎむら・けい)
ライター、醤油研究家、日本酒研究家、料理漫画研究家
京都在住。愛称は「むむ先生」。ライターとしてさまざまなウェブメディアを中心に執筆を行うかたわら、雑誌に寄稿したり、日本酒や醤油のイベントを行ったり、テレビやラジオにも多く出演している。読むだけでビールがおいしくなる本と評判の『白熱ビール教室』、日本酒ファンのみならず、蔵元・酒販店・飲食店から高い評価を得た『白熱日本酒教室』、新たな視点からの蒸留酒入門書として話題になった『白熱洋酒教室』(いずれも星海社新書)、全国一億二千万の醤油好きを唸らせた『醤油手帖』(河出書房新社)など、著書多数。
http://shouyutechou.hatenablog.com/

「本取材対談記事は、初掲載時に対談のご両名の修正を完全に入れたものではなく、再度修正の上、ご両名の了解の上、掲載させていただくこととなりました。両先生にはご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」編集部

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