2017年、恋したいあなたに。 映画「男はつらいよ」に学ぶ 寅次郎の恋愛処方箋  Lessons About Romance by Tora-san

2017.01.31

vol.15 TOKYO NEXT


いまこそ! 寅次郎の恋愛処方箋


── 寅さんの言葉というのは、どのように生みだされてきたのでしょうか。

第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』以降は、大人になった満男を軸としたシリーズで、そこから寅さんは恋愛の指導者役になっていきますが、ここでも数々の名言を残しています。『男はつらいよ』のシナリオは、第7作以降、山田監督と共同脚本の朝間義隆さんが、対話をしながら作っていったそうです。山田監督が経験、体験してきたことが、渥美清さんという役者の肉体を通じて、寅さんの言葉になっています。そこにあるのは、観ている人たち、同じ時代に生きている人たち、不器用な若者たち、恋愛をして悩みを持っている人たちに対する、ありとあらゆるエールなんです。理屈や講釈などは抜きにして、ただ感じることだけで心に残るものがある理由は、そこにあるのではないでしょうか。

── 現代人は恋愛に消極的といわれますが、寅さんもそれは同じだったのでしょうか?

寅さんは積極的が故の、消極的行動になるだけでそこは違うと思います。傷つきたくないという気持ちは同じでしょうが、寅さんはちゃんと行動を起こすんです。ただガツガツ前のめりにいくのではなく、大切な人を想っての行動だったり、献身愛の姿が日本人の琴線に触れるんだと思います。だから映画を観た若い女性たちは「寅さんみたいな人が好き」ではなく、「寅さんみたいな人が近くにいたらいいな」という、背中を押してくれる存在を求めているのではないでしょうか。寅さんは人の話を聞くときにも決して踏み込み過ぎず、否定もせず、じっくりと受け止めてくれます。そういう存在に癒されたいという、カウンセラー的なニーズもあるのかもしれません。

── 寅さんが最近の恋愛しない若者たちにメッセージを送るとしたら、どんな言葉を送るでしょうか?

「腹なんか空かない、絶対に空かない。美しい恋をしていれば、一カ月くらい飯なんか食わなくたって、平気だ! 」
第43作『男はつらいよ 寅次郎の休日』より


「一度や二度失恋した方がいいんだよ。失恋して人間は成長するんだよ」
第45作『男はつらいよ 寅次郎の青春』より


これが今から50年前に始まり、約20年前に終わった映画のセリフとは思えません。寅さんの恋愛処方箋は今の時代でも十分効きますし、映画を観ればちゃんと私たちを受け入れてくれる存在なのです。

新たな一年を迎えるにあたって、励ましと勇気をくれる存在だった『男はつらいよ』。以前はお正月には某局でシリーズ一挙放送をしており、私のなかでは年始の恒例行事のように楽しみにしていたが、残念ながら今年はその放送予定もないようだ。
改めて、DVD BOXで全作観倒して、恋の活力をチャージしようと思うのであった。

(Text:Yumi Sato
(Photo:Masashi Nagao)



佐藤利明
娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサー。娯楽映画をテーマに、キャストへのインタビュー、新聞連載、DVDの企画・解説、また歌謡曲・ジャズ・サントラなど幅広いジャンルのCD企画など、マルチに活躍。CD『寅次郎音楽旅』『続・寅次郎音楽旅』『男はつらいよ×徳永英明 新・寅次郎音楽旅』の企画・構成など、『男はつらいよ』と山田洋次監督をライフワークとしている。

撮影協力/葛飾柴又寅さん記念館 ©松竹(株)

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