なぜ古書店の間口は北向き? 何でも揃うナゾの街 神田・御茶ノ水のヒミツ Kanda-Ochanomizu's Intelligency

2017.05.29

Vol.18 中央線快速物語

“古書店街の生き字引き”に会いに




メインの靖国通りから少し入った路地裏に佇む沙羅書房。「落ち着いた場所でのんびり商売をしたい」と考えて、12年前に現在の場所に引っ越しをしたという。沙羅書房会長の初谷康夫さんは古書業界の名門、一誠堂書店に11年ほど勤務した後、独立して昭和42(1967)年に和本や古地図、学術書を扱う沙羅書房を開業。80歳になった今も現役でお店に立っている。



「このあたりは、昔は学生であふれていました。当時は学生服を着ていますから、襟章を見ればどこの大学の学生さんかすぐわかる。入学すると教科書を買いに来て、卒業の時期には卒業論文の資料を探しに来ました。本を紹介するだけでなく、論文の書き方の指導までしていましたね」

インターネットが普及した現代では、すっかり学生の姿は見受けられなくなったと初谷さんは少し寂しそうに言います。ひと昔前までは図書館の役割を担っていた古書店。書店主人に求められる知識や見識は、並大抵のものではなかったはず。



「うちの店は大学の先生もよくいらっしゃいます。そういった方々とお話しをしてお互いに切磋琢磨する。書店は“交換の場”なんです。いただいた情報が私たちの知識になり、栄養になります。昔は学生もそういうもの吸収してきたのですが、今は古書店街を知らない、歩いたことがないという学生もいます。非常にもったいないですね」



当たり前だが書店には本棚がある。関連性のある本が近くに並ぶことで、お目当ての本だけではない、別の本を手にとってページをめくる楽しみがある。これこそ書店に足を運ぶ醍醐味であり、ネットで本を“一点買い”するのでは決して得られない体験と知恵だ。幸いにして、神保町の古書店は立ち読みに対して寛容である。



初谷さんが書店修行をした一誠堂書店は、靖国通り沿いに店を構える。昭和6(1931)年に竣工された本店ビルは歴史ある佇まいで、建築スポットとしても名高い。手に入れた古書をゆったり楽しめる昔ながらの喫茶店が残っているのもこの街の魅力。もちろんこのエリアは古書店だけでなく、数多くの出版社が軒をならべ、学生+本+古書+出版という連鎖を今でも(ギリギリになりつつあるが)保っているのだ。

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