vol.2_title_nippon

2014.10.01

vol.2 TOKYO 30s girl
TW_nippon_02
Bravo! NIPPON
古事記アーティスト・吉木誉絵さんが語る『古事記』の魅力、いにしえの女たち-(2)

神様ですら、今も働く国・ニッポン!
「日本人が働き者」な理由は、女神の存在から見出だせる
TW_kojiki1

──この絵は何を表しているのですか?

吉木:これは、古事記に出てくる「天の岩屋戸(アマノイワト)神話」という物語のワンシーンで、岩の洞窟に神隠れしていた天照大御神(アマテラスオオミカミ)が出てきて、ふたたびこの世を太陽で照らしている様子を表しています。天照大御神(アマテラスオオミカミ)は、日本人にとっての太陽。砂漠が多い西洋文化では、逆につらい存在になることもありますが、私たちにとっては昔から、とてもありがたい存在。なぜかというと、稲作民族だからです。

──天照大御神(アマテラスオオミカミ)に、特定のパートナーはいたのですか?

吉木:天照大御神の親であるイザナギノミコト(男神)とイザナミノミコト(女神)のように、夫婦の関係を結んだ相手はいませんでしたが、子どもはいます。人間同士のように、性交もありますが、神様の“結ばれる”という概念には少し特殊なところがあって、相手の持ち物を噛み砕き、吹き出したら子どもが生まれるというケースもあるんですね。

天照大御神(アマテラスオオミカミ)の凄いところは、機織り屋として、天でお仕事を持たれていることです。神様が手仕事を持つのは、稀有なケースで、日本人が働き者なのは、彼女に起因すると考えられています。トップに君臨する女性の神様として、基本、毅然とされているのですが、弱い部分もあって、くじけそうになると、まわりの神様に助けてもらうことも多々ある方です。

──“まわりからみると、強く、たくましく、バリバリ働いているようにみえて、実は色んな悩みを抱えている”―おこがましいかもしれませんが、今の30代女子とも共通する点があるように思います。

そうですね。近いかもしれません。私自身も、「悩みなんてなさそう」「何でもひとりでできるのでは?」と言われることが多いのですが、日々、色んな経験をする中で、自分の弱さと向き合う時、落ち込んだりもします。「そんなに強くないよ…」と。いち女性としての生き方について、あれこれ考え悩みながらも、まわりの人たちに助けられ、とにかく前を向いて進んでいく天照大御神(アマテラスオオミカミ)のあり方は、どんな女性にとっても共感できることが多いのではないかと思います。

ある日突然、この時代からではなく、 古来より、強く、美しく、勇ましい。それが日本の女性 TW_kojiki2

──古事記には、他にどんな女性の神様が登場するのですか?

吉木:女性の神様はいっぱい出てくるのですが、総じて、美しく、精神力が強いです。いやなことがあっても、ちょっとやそっとのことで、めそめそしません。例えば、この絵に描かれている木花咲耶姫(コノハナノサクヤヒメ)。邇邇芸命(ニニギノミコト)がひと目惚れして、求婚し、結婚するのですが、たった一晩の交わりだけで妊娠してしまいます。すると、ニニギノミコトは、「本当に私の子か?」と疑います。男性が女性の身ごもった子を自分の子かと疑うのは、今でもよくあるお話ですよね。

「ひどい、私を疑うなんて…」と弱気になるのではなく、女性としてそんなことを疑われるなんて屈辱でしかないとコノハナノサクヤヒメは、大いに怒ります。「もし、無事に産むことができなかったら、私の不貞が招いたことだと思えばいいですよ」と、彼の子であることを証明するために、産屋に火を放ち、その中で産み遂げました。命がけのシチュエーションに身を持って挑み、最後は、愛する夫に判断を委ねる。実に勇ましいですよね。

──近年、「女性が強くなった」といわれますが、今のお話によると、元から日本の女性は精神的に強かったように思います。

その通りですね。でもその反面、いにしえの女性たちは、男性に寄りかかりたくなるところもグッと抑えて、我慢していた部分がかなり多いのではないかと思います。「やまとなでしこ」について語る時、「凛とした美しさ」と表現されるのは、そういう強さがおそらく外見に現れているからではないかと。

現代は、男尊女卑と言われることもありますが、昔から女性は常に尊重されていた存在ですし、聖書のように、女性が奴隷として登場する話はひとつもありません。先ほどのコノハナノサクヤヒメのようにいきいきと描かれています。今の社会では、改善した方がより女性が生きやすくなる部分は色々とあると思いますが、基本的に不平等だとは思いませんし、むしろ、今ほど女性が輝ける時代はないのではないかと。

国や神々を産むことについても、古事記では、男女がお互いにないところを補い合う共同作業として伝えられています。ちなみに、聖書の仲で描かれている男女は従属関係にあります。アダムがまず土から作られます。エデンの園でひとりでつまらなそうにしていると、それをみた神様がかわいそうだと思って、アダムを眠らせて、彼の肋骨を一本取って、そこからイブを作りました。つまり、女性は男性をなぐさめるために男性から生まれたというストーリーなのです。これは大きな違いだと思いませんか?

──元はと言えば、ウーマンリブや男女平等といった概念は、西洋から来ていますよね。なんだか、ちょっと皮肉な感じがします。

「日本の女性は強いけれど、女性らしいから好きなんですよ」と、先日、アメリカ人の友人が言っていました。彼は、日本の伝統的な文化や歴史に精通している60歳の男性なのですが、「どちらかというと、アメリカの女性の強さは、男の強さに似ている」と。

日本の女性は男性をうまく立ててくれる。でも、実のところ、二人にとって、家族にとって大事な決めごとは、見えないところで、女性が実権を握って、うまくコントロールしている。“お小遣い制度”が、その良い例じゃないかなと。なるほど、と思いました。「女性が男性を立てるのが上手」というのは、賛美の言葉ではないでしょうか。

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL