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2015.05.04

vol.5 TOKYO STANDARD

◆千代の湯・中野

s_DSC_0620 銀座の「金春湯」とはまたひと味違った渋さのある中野の銭湯「千代の湯」。そこは、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てくる懐かしい街並みが、50年、60年の年月を経てさらにセピア色に染まったような独特のムードが漂う住宅街。人通りはほとんどなく、静寂なエリアだ。 玄関に飾られた黒瓦の千鳥破風屋根を隔てるように、男湯と女湯がある。湯に浸かったあと、すっかりくつろいで、靴を履き忘れて帰る人がいるのだろうか。正面に大きく貼られた「下駄箱の札(カギ)を持ち帰らないで下さい」という注意書きにいきなり釘付けになってしまった。

s_洗面器体重計 s_フレッサー扇風機 女湯の暖簾をくぐると、にこやかな番台の女将が出迎えてくれた。「あそこの店主、スズメのために炊き米を店の前に毎日撒いているらしいよ」。この銭湯の存在を教えてくれた中野区在住の友人の言葉と女将の笑顔がとっさに結び付く。

外観とは打って変わって、脱衣所には赤やピンクや黄の色が溢れ、ポップなムード。脱衣所にはロッカーとは別に棚があり、どこもかしこも風呂敷に包まれた洗面器でいっぱいで贔屓客の多さがうかがえる。

s_Tile Chiyonoyu

さて浴場。引き戸を開けて入ると2段式天井がドーンと広がり、奥壁には通称・軍艦島で知られる石川県の見附島のペンキ絵が描かれている。都内では、千駄ヶ谷の「鶴の湯」にもあるが、中々珍しいモチーフ。聞くと、こちらのご主人の出身地にちなんでのことらしい。

入ってすぐの右手にはシャワー室、左手には4人用の低温サウナ室があり、中には赤外線放熱器が2機取り付けられている。入浴料で自由に利用可能だ。浴槽は、約1.5畳の深湯とジェットバスが2つ。3畳ほどのバイブラバスの浴槽窓側には赤いライトが光る。シャンプー類、ボディソープはもちろん備え付けである。築50余年の建物のスピリットを継承したような木桶もタイムトリップ気分を味わえて実に小粋。
s_タイル絵2 営業中のため、男湯を覗くことはできなかったが、ひと続きになった奥壁は遠目に見ることができた。こちらがその一枚。真ん中の柱を隔てて右側が女湯、左側が男湯である。ちらりと見えるペンキ絵の山頂は、やはり富士山。全面には海越しの富士山と岩が描かれているそうで、タイトルは「西伊豆・雲見」。2011年のクリスマスイブに完成したというロマンチックな一作である。雰囲気もサービスも良く、テレビドラマの舞台としても使われているこちらの銭湯、毎週日曜には、森林浴湯なども実施されているそうだ。


千代の湯
東京都中野区中央3-16-12
03-3369-2997
営業時間:15:45~24:00
定休日:土曜日





◆天神湯・北品川

s_天神湯 看板 北品川の天然温泉「天神湯」は、北馬場参道通り商店街近く、スーパーモダンなマンションの一階にある銭湯。ウッド調の自動扉を入ると、広々とした空間には、マッサージチェア、大画面テレビ、 ドリンクコーナーなどがある。受付の奥にはアクアウォール、吹き抜けの天井まで高く伸びる松のオブジェ。何もかもがとにかく洒落ていて、古風な銭湯とはまた別の意味で、時空を越えた気分が味わえる。

s_浴槽 浴場には、エレベーターで移動する。伝統的なタイル絵やペンキ絵の代わりに、現代的な様相の開放感がみなぎっている。ほど良い白湯の湯加減も絶妙でとろけそうなぬくもりを体感したが、今回、筆者の一番の狙いは個室の“黒湯”だった。

こちらの黒湯は、地下100メートルから汲み上げられたもので、古生代からの植物が分解されて有機物となり、ゆっくりと時間をかけて地下水に溶け込んだ天然温泉。 有機物に結びついたミネラル分が多分に含まれているので、地表に出ても劣化することなく、都内でもっとも腐植質の含有量が多く、効果が期待できる湯処として知られている。

s_黒湯 湯船 s_黒湯 窓からは外光が射し込む造りになっているが、夜も更けてきた頃、入浴してみたら、その空間も、湯も、全てが真っ黒だった。翌朝、触れてみると、いつにもなくしっとり、なめらかな肌具合に、ミネラルの凄さを思い知らされた。願わくば、毎日浸かりたい湯のひとつだ。ちなみに、黒湯は品川区だけでなく、東京という土地ならではの特別な湯なのだそう。

武蔵小山の露天風呂付き清水湯やアートなペンキ絵が楽しめる戸越銀座温泉など、そそる湯を挙げだせばキリがない。現在、約720軒あると言われる東京銭湯の中から、マイ定番を発掘してみてはどうだろうか。知らぬが仏、されど知れば都だ。


北品川温泉 天神湯
東京都品川区北品川2-23-9
03-3471-3562
営業時間:15:00~25:00
定休日:金曜日
http://www.tenjinyu.com/index.html




(Text & Photo: 岸 由利子)

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