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2015.12.30

vol.8 TOKYO TASTY
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来年の春、東京フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーション公演が決定し、常に新しい音楽のスタイルを提供し続けるテクノDJでありアーティストのジェフミルズ氏。親日家である彼が提供したオリジナルのアンビエントミュージック(※1)を聴きながら“Chillout Session”という名のマッサージが受けられる場所が、渋谷のオフィスビルの一画に存在する。
「渋谷」と「チルアウト」という組み合わせはクラブか何かを連想させるが、ここはリラクゼーションスペースだ。しかもアロマオイルを使った施術もあるが、よくあるアジアンリゾート風のウッディな内装ではなく、まるで宇宙船の中にいるかのようなスペーシーなつくりになっている。

アンビエントミュージック(硬)と癒し(柔)ってなんだか対局にあるような気がするけど、テクノ好きかつアロマセラピーサロンに足繁く通う筆者にはマストで体験しなければならないセッションのように思えてならなかった。そこで、早速この限定コースに予約し、Chillout Sessionを受けてみた。

なるほど、最初はアンビエントミュージックを聴き慣れている筆者でもこの宇宙空間に裸で横たわり、ヘッドフォン(してもしなくても可)から流れてくるジェフの音楽とマッサージされる感覚のギャップに少しそわそわしてしまったが、次第に体はほぐれ、ゆっくりとその世界に意識を浸透させていった。

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何よりも、ここでしか聴けないというジェフの音楽は、60分の施術のパーツ(例えば背中、足、腕、頭など)によって何度も展開されており、アンビエントとアロマの香りとマッサージが折り重なって、絶妙な調和を醸し出している。究極のリラクゼーションとはこのことではないか。

ところで、オリジナル音源をここ(CHILL SPACE)に提供したジェフ・ミルズ氏はやはり健康志向なのだろうか。(自宅でヨガとかやってるかも) そこで、本人にアンビエントミュージックとリラクゼーションの関係について色々聞いてみた。

──「The Healing Channel」は、いつころ制作されたものなのですか?

ジェフ・ミルズ(以下ジェフ)氏:10年ほど前日本のケーブルテレビで「ヒーリング・チャンネル」という健康専門のチャンネルの番組を観ていて思いつきました。より良い健康、生活に関する話題だけを扱うチャンネルだった。それで、そういった目的の音楽を作ってもいいかなと思いました。

──どのような経緯で「The Healing Channel」を制作することになったのですか?

ジェフ氏:スパには僕自身もときどき行くし、マッサージのときのBGMとしてもうちょっと違ったタイプの音楽があってもおもしろいのではないかと考えました。自然、自然現象の音だけではなくて、大都市の音をフィーチャーして。反復する音、都市の躍動感をリラックスして心地よい音に変換するという方法を考えました。

──ご自身は、リラクゼーション(健康、体のことなど)や、東洋医学にご興味がありますか。

ジェフ氏:はい。何年にもわたるDJやそれにまつわる移動で僕の体はダメージを受けているので、常に健康は意識してケアのことを考えています。

──リラックスできる音楽と、そのような音楽を聴く環境とはどのようなものでしょうか。

ジェフ氏:自然音をベースにした音楽がすべての人をリラックスさせられるとは思っていません。都市で育ち、若いときに田舎や自然の中ですごす時間がほとんどなかったので僕自身は厳しい環境の中でも平和を見出すことができると思っています。
「The Healing Channel」のサウンドトラックでは意識して円を描くような音作り ー 時間と空間の観念を頭から消してしまうような音を作り上げました。精神をリセットさせられるような音です。

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──Chillout Sessionを体験させていただきました。最初は少しそわそわしてしまいましたが、次第に落ち着き、深く、深くリラックスできました。どのようなことからインスピレーションを受け、このアルバムは制作されているのですか。

ジェフ氏:リラックスのプロセスを理解しつつ、意識的に最初はすこしテンションを感じるような音作りになっています。そうすることで後半もっと精神を深いところへ誘導できるのです。痛みのあるところにわざとプレッシャーをかけることで痛みを改善するのと似たような方法です。

──TOKYOWISEの読者層が30代〜40代のビジネスマン(ウーマン)が多いのですが、東京という都心で心身共に健康を保つにはどう過ごすのがよいと思われますか。

ジェフ氏:毎日静寂の時間を作るように心がけることだと想います。10〜15分(可能であればもっと)何もしない時間を。ノイズキャンセリングのヘッドホンは精神統一に役立ちますよ。

──Chillout Sessionをこれから初めて体験される方にメッセージをお願いします。

ジェフ氏:何事に関しても、将来の夢をもってそのすべてを実現しようと努力するようにすること。いつも何かを求めているという姿勢が大切です。

やはりジェフミルズ氏は自身がかなりのハードスケジュールで移動(ツアーなど)が多いという生活ゆえ、健康を常に意識し体をケアされている様子。「厳しい環境の中でも平和を見いだすことができる」というのは実に参考にしたい助言である。わざわざ自然の中や静寂な場所に身を置かなくても、自分でコントロールすれば平穏な気持ちをいつでも持てるということである。これは東京という大都会に住む私たちにはぜひマスターしたい業だ。

では、そもそもなぜCHILL SPACEではリラクゼーションにアンビエントミュージックを採用したのか?大抵のアロマトリートメントサロンでは、小鳥のさえずりが聴こえたり森林の中にいるかのようなヒーリングミュージック(ふつうに歌謡曲を流しているところもあるが)をかけている。そこで、今度は自身もセラピストであり、CHILL SPACE立ち上げのプロデューサーである鶴崎氏にも話を伺った。

──CHILL SPACEを始めたきっかけは何ですか?

鶴崎氏: 元々オフィスリラクゼーションを行う目的で『リラクル』という事業を立ち上げ、店舗を持たずにシチュエーションに合わせて移動式でリラクゼーションをプロデュースするという活動をしていました。運営会社が音楽レーベルということもあり、都内のクラブやSUMMER SONIC、WIRE、ap bank fes、Rainbow Disco Clubなどに出店することも多かったです。ちょうど2年前に今の場所のオーナーさんにお声がけいただく機会があり、移動式サロンのショールームとしての役割も兼ねるように渋谷にCHILL SPACEをオープンすることにしたんです。

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──なぜ施術にアンビエントミュージックを採用しようと思ったのですか。

鶴崎氏:運営会社がインディーズの音楽レーベルで、電子音楽をメインに扱っています。社長がリラクゼーションに興味があったのと身近にアロマの調香師がいて、音楽や香りが体に作用する効果を生かしたリラクゼーションがしたいという思いからこの事業が発足しました。スタッフみんなが音楽好きで、アンビエントミュージックのリラックス効果を体感していたということも大きかったですね。

──お客さんの層は? また、アンビエントミュージックへの反応は?

鶴崎氏:クロスタワーというロケーションもありビジネスマンやOLの方が多いですが、ご年配の方にもよく来ていただきます。みなさんアンビエントミュージックは知らない方がほとんどですが、興味を持っていただきますね。ジェフミルズを知らない人たちへアプローチできるというのもCHILL SPACEをもつ大きな意味のひとつです。

ふむふむ。アンビエントミュージックはどうやら日々渋谷のビジネスマン(やお年寄り)の心身の癒しに貢献しているようだ。

アンビエントミュージックは「時間と空間の観念を頭から消し」て、都会の中で生活する私たちが心身共にリラックスする上で特効薬的に作用してくれる音楽といえるかもしれない。そう、いわば漢方のように優しく、それでいてしっかりと体や心をほぐしてくれるはず。

(Text:Nao Asakura)
(Photo:Yuuko Konagai)


※1 環境音楽。電子音楽の一種。「聴き手に向かってくるのではなく、周囲から人を取り囲み、空間と奥行きで聴き手を包み込む音楽(ブライアン・イーノ/ 参考:artscape)」

Jeff Mills 
1963年デトロイト市生まれ。エレクトロニック・ミュージック、テクノ・シーンのパイオニアとして知られるDJ/プロデューサー。Axis Records主宰。
2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたるChavalier des Arts et des Lettresを授与される。 近年では各国オーケストラと共演、日本科学未来館館長/宇宙飛行士 毛利衛氏とコラボレイトした音楽作品『Where Light Ends』を発表、また日本科学未来館の館内音楽も手がける。ジャクリーヌ・コー監督、ジェフ・ミルズ主演のアート・ドキュメンタリー・フィルム『MAN FROM TOMORROW』は、パリ、ルーブル美術館でのプレミアを皮切りにニューヨーク、ロンドンの美術館などで上映される。2015年、東京にてアート作品展示会『WEAPONS』を開催するなどその活動は音楽だけにとどまらない。2015年09月09日、DJプレイ、即効演奏、作曲風景など自身の創作活動の細部までを赤裸々に映像に収めた『Exihibitionist 2』を発表し話題に。2016年3月21日にBunkamura オーチャードホールにて開催される東京フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーション公演にて来日予定。
http://www.promax.co.jp/bakucla

『Exhibitionist 2』(2DVD+CD) 発売
価格:3,996円(税込み)
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Jeff Mills伝説のドキュメント映像作品『Exhibitionist』から11年を経てリリースされた『Exihibitionist 2』。普段では観ることの出来ない楽曲制作の模様や、即興性溢れる演奏、リアルタイムで思考が音へ変容する様まで映像で捉えたドキュメント映像作品。

CHILL SPACE http://www.chill-space.com
東京都渋谷区 渋谷2丁目15−1
電話:03-3400-1620
CHILL SPACEが12月で2周年を迎え、期間限定のキャンペーンを実施。店内をゆらめく空間映像もリニューアルされる。

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