映画『フランシス・ハ』
ノア・バームバック監督独占インタビュー – (2)

2014.09.12

CLIPPING
Frances_Ha ©Pine District, LLC.

疾走感あふれるリアルなセリフの応酬

──デヴィッド・ボウイの『モダン・ラブ』をバックに、フランシスが街を駆け抜けるシーンがとっても印象的で、まさにこの映画そのものを象徴しているかのようでした。 実はあのシーンは脚本の段階では2行くらいの簡単なシーンで、どういう音楽をつけるかどうかも、まったく決まっていなかったんだ。でも、フランシスというキャラクターの“喜び”や“スピリット”が、あのシーンで表現できるんじゃないかと考えた。

難しい局面に直面したときも、持ち前のエネルギーでなんでも克服できるというキャラクターを、肉体的かつ映像的に捉えられるんじゃないかと思ってあのシーンを撮ったんだ。実際ニューヨークに住んでいると、なかなかああいった喜びのシーンというのはつづかないものだけど、だからこそ、観客にとっても一番印象に残るシーンになったんじゃないかな。でも、実際ああいう形で映像化できたのも、脚本にあの2行があったからなんだよね。
──映画のなかで「Undateable(非モテ、恋愛対象外)」「Ahoy sexy!(ヤッホー、美女よ)」といった言葉がよく出てきましたが、会話のキャッチボールがリアルですよね。 「Undateable」はグレタのルームメイトが使っていた造語さ。ふざけあってそんなやりとりをしていたらしい。「Ahoy sexy!」も、掛け合いから自然にでてきたフレーズだね。ただ、どちらも台本どおりの言葉で、即興で使ったフレーズではないんだ。ちなみにこの映画で即興のセリフは一言もないんだよ。
──そうなんですね。台本どおりとは思えないくらい、自然な演技でした。演出の秘訣はどのあたりに? ある意味、計算された実験とも言えるんだけど、今回に限っては、グレタ以外の役者には事前に台本を渡さなかったんだ。自分が出演するシーンのページだけを読んでもらったから、全体のなかでそれぞれの役柄がどんな機能を持っていたのかはわからなかったはず。でも最終的には、それがすごくいい結果につながったと思う。役者によっては難しいと思ったかもしれないけど、今回の作品にはフィットしたスタイルだった。

作品や俳優によってアプローチは変えているんだけど、いつも共通しているのは、脚本の完成に長い時間をかけていること。ぼくは思い通りの脚本ができるまで、決して現場入りはしない。セリフがキャラクターを形作っていく場合が多いからね。今回はこれまでの作品とはちがって、あまりリハーサルをせずにテイクをたくさん重ねたんだけど、それもキャラクターの動きを明確に打ち出すためなんだ。セリフは同じでも、動きが変わると表現も変わってくるんだよ。

とはいえ、監督として現場ですべてをコントロールしたい、というわけじゃなくて、演出するうえで完璧な環境作りはするけど、俳優たちに自分を驚かせてほしいし、まったく予想もしないところに連れて行ってほしいと思ってるんだ。

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL
News Clip一覧を見る