映画『不機嫌なママにメルシィ!』
監督・脚本・主演、ギヨーム・ガリエンヌに
インタビュー

2014.10.02

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母親に女の子のように育てられ、だれもがゲイだと信じて疑わなかった少年が、初恋に破れたことをきっかけに、自分のセクシャリティを模索する旅に出る──。そんな驚きの実話を舞台化し、大ヒットさせたのは2008年のこと。それから5年。今度は映画になって帰ってきた。はたして300万人を動員し、今年のセザール賞(フランス版アカデミー賞)最多となる5部門を制覇した『不機嫌なママにメルシィ!』。監督、脚本、そして主人公のギヨームと母親の2役を演じるという、1人4役(!)を華麗にこなしてみせたのはギヨーム・ガリエンヌ。OPENERSでは今回、フランス映画界のあらたな旗手との呼び声も高い彼にインタビューを敢行。映画化までの道のりから、2役を演じわける秘訣について、赤裸々に語ってくれた。

人生を変えたオファー

──最初にこの自伝的物語を舞台で上演しよう、映画化しようと思われたきっかけってなんだったのでしょうか? 正直に言うと、最初から映画が撮りたかった。でも少し前まで、ぼくはまったく無名の役者だったから、映画化するための資金を集めるのが難しいなと思ってね。この作品は裕福なブルジョワ家庭が舞台。真実味をもたせるには、なによりもまずお金が必要だったんだ。

オリビエ・メイヤーから誘いを受けたのはそんなときだった。彼はパリ郊外のブローニュにある「l’Ouest Parisien(ルエスト・パリジャン)」という劇場の芸術監督を務めている人。コメディ・フランセーズ(フランスの国立劇団)の舞台でぼくの演技を見た次の日に電話をくれたんだ。「ギヨーム・ガリエンヌに白紙委任状(=条件をつけずにすべてを任せること)を与えたい」と言って。「その“白紙委任状”ってなんですか?」って聞いたら、「あなたのやりたい舞台を、やりたいようにやってくれたらいいんだよ」って言うんだ。

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──これ以上ないほど素晴らしいオファーですね。 本当にね。じゃあ、どんな舞台にしようってなったとき、迷わず自分の体験を題材にしようと思った。ぼくが長年温めてきた企画……それは女の子と思われたり、ゲイだと思われたり、混乱したセクシャリティを抱えていたひとりの少年が、あちこちで冒険を繰り広げながら、運命を切り開いていこうとする話。映画で描くのがベストだと思っていたけど、どんな形であれ、この話を形にする場を与えてもらったことがなにより嬉しかった。そんなわけで、まずは舞台でやってみようということになったんだ。
──舞台はどんな構成にしたのですか? この話にはいろんな人物が登場する。舞台では52人出てくる設定にしたんだけど、ワンマンショーだったから……。

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──え? 52人をひとりで演じたんですか? そういうこと(笑)。でもワンマンショーだと、なにか事件があるたびに、ギヨームが茫然自失状態に陥るという、この話のカギになる部分を演じきることができなかったんだ。それにいろんな人物を入れ代わり立ち代わり演じていたから、ものすごくせわしなかった。ひとりひとりを丁寧に描く余裕はなかったね。

たとえば、舞台上での父親は、ほとんど存在しないと言ってもいいほど影が薄かった。ところが映画では、カメラワークとか見せ方によって、彼に存在感をもたせることができたんだ。たとえ大きな登場シーンはなくてもね。母親についてもおなじことが言える。舞台上では見せきることができなかった彼女の優しさや優美さを、映画のおかげでようやく取り戻すことができたんだ。

ぼくが描きたかったのは、ありきたりの真実じゃない。ぼく自身の真実。つまり主観的であっていいわけ。プルーストの小説『失われた時を求めて』のように、少年時代から現在、ある場所から次の場所へと瞬間移動する。男役と女役のあいだを行ったり来たりもする。ドキュメンタリータッチで人生を追っていくのではなくて、あくまでも映画のフィクションとして描きたかったんだ。

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