Editor’s Eye

2015.07.22

Editor’s Eye
s_mt002

富士山の麓で生まれた、世界初のマグネシウムチューブ椅子

窓を開ければ、目の前には富士山。自然に囲まれた豊かな環境で、マグネシウムの“冷間引抜加工”という特殊技術に特化する「マクルウ」は、この地に生まれ育った安倍信貴氏とその父によって生まれた、斬新なモノづくり系ベンチャー企業だ。

この冷間引抜加工。漢字がずらっと並ぶと少し難しくみえるが、内容はいたって単純だ。先端を細くしたパイプを丸い金型に手前から挿し、その頭を向こう側から出す。頭を掴み、そのまま向こう側へ、分速約15メートルのスピードで引き抜くと、細く、精密なパイプやワイヤーが出来上がる。引抜の過程で細くなった分、長さはおのずと延びるので、必要な長さがあれば、引抜後、それに応じてカットしていく。シンプルに聞こえるかもしれないが、マグネシウムで、この技術を実現したのは、彼らが世界で初めである。

s_DSC_0032

5月より発売開始したMt002を初めて写真で見た時、てっきり大人向けの椅子だと思っていたが、実は子供用に作られたものだった。「マグネシウムの特徴のひとつは軽量性です。“このメリットを生かせる椅子はどんな椅子だろう?”と考えた時に、子供が重たそうに椅子を持ち上げている絵が浮かびました」と安倍さん。

Mt002はわずか1.1kg。生後3ヶ月の子猫くらいの重さだ。それでいて、剛性、デザイン性にも富んでいる。「製品を通じてマグネシウムを知って欲しい。私たちには、この想いが強くあります。もし、当社の加工技術を生かした製品を作るなら、感性や価値観の合うデザイナーの方やプロフェッショナルと組んで作りたい。当初からそう思っていました」

そうして実現したのが、世界初のマグネシウムチューブ製ファニチャーブランド『Mt(マウント)』。参画パートナーは、マクルウを中心に、アメリカ、スペイン、日本で幅広いデザインプロジェクトに携わるデザイナー・伊藤祐氏、旧車のレストア、革細工、山小屋のリノベーションまで、幅広いモノ作りを行う遠藤敦氏。いずれもMt002の開発に携わったメンバーである。

s_DSC_0034

第10回ロハスデザイン大賞2015最終審査候補モノ部門にもノミネートされた同商品。マグネシウムは環境にも優しい素材なのだそうだ。「実用金属の中で、比重1.78の最軽量という特徴を活かして、今、ノートパソコンやモバイル機器を中心に採用が広がっています。マグネシウムが一般化していけば、あらゆるモノがどんどん軽くなっていきます。コストが下がれば、自動車などにも使えますし、わずかなエネルギーでリサイクルできる素材でもあります」

『Mt(マウント)』は今年後半より、欧州での展示会など、海外展開を視野に入れており、それに準じて、2つの新モデルの追加を検討中だという。ほうぼうからリクエストの声もあって、大人用のMt002もすでに試作済みなのだそう。

「“マクルウ”という社名は、マグネシウム合金の冷間引抜加工の英語表記の頭文字“Macrw”から取ったもので、会社の事業そのものを表していますが、実は裏テーマもあります。競馬に、最後のコーナーまではずっと後ろの方に控えていて、一気に駆け上がり、追い抜く“まくる”という勝ち方があるんですね。私たちの技術も、素材も、業界では新参者にあたりますし、色々と時間はかかるかもしれません。でも、その時が来たら一気に普及する。そして普及させていきたい。そんな気持ちも込めて名づけました」

杖・車椅子・盲導犬ハーネスなど福祉用具の開発を中心に、マグネシウムの可能性を多彩な製品に具現化しているマクルウ。この素材が私たちの生活に浸透する日は、そう遠くないのかもしれない。

(Text: 岸 由利子

マクルウ
http://macrw.com/
Mt (マウント)
http://mt-mg.com/

Mt002
寸法:W320 x D420 x H520 (SH290) mm
重量:約1.1Kg 
価格:¥38,000

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL