Editor’s Eye

2018.04.19

Editor’s Eye

ニューヨークでスタートする大回顧上映会

日本国内で様々な機関や会社にあったてもなかなか色よい返事が得られない中、やりましょう!と声をあげたのが、NYで日本の文化を紹介するジャパン・ソサエティーの映画部シニア・フィルム・プログラマー、増渕愛子さんだった。
「今、ニューヨークはアメリカの中でも映画に熱心なエリアで、そこで宮川作品をレトロスペクティブ的に上映しようという動きになった。ジャパン・ソサエティだけでなく、MoMAやフィルム・フォーラムなども共同で開催されることになり、全部で27作品が上映されることに。父の生誕110年とジャパン・ソサエティ創立110年が重なったという縁もありました」と宮川さん。

ただ上映するにしても、フィルム自体の劣化をどうするか、デジタル化をどこまでできるかなどの問題は残ったままだった。そこで宮川一郎氏と親交のあったエリック・ニアリ氏の登場だ。エリック氏はニューヨークで数多くの名画の修復を手がけるシネリック社の映画修復の国際代理人、及びシネリック・クリエイティブ社長。プロデューサーとしても「CUT」、「シェル・コレクター」などを手がけ、今回の宮川作品の修復も彼の指揮による。

エリック・ニアリ氏と、宮川一郎氏 「宮川作品の撮影の凄さをどこまで再現できるかということで、フィルムの修復と同時に、次世代へという宮川(一郎)さんの願いを込めて4Kへとの修復を試みました。特に白黒時代の暗部のどこまでも続く諧調、銀残しという宮川一夫の発明した現像手法など、光と陰の絶妙なバランスを再現するのに苦労しました」。
そしてもう一人、重要な役割を果たしたのが宮川一夫撮影監督の助手として撮影技師を務めた宮島正弘氏だ。
「実際に宮川カメラマンと仕事をし、どんな指示が出ていたか、どうやって撮影していたかを知る宮島氏の存在がなければ、ここまで完全に修復はできなかったかもしれません」。
そうエリック氏が語るように、今回の修復は宮川一夫撮影監督の意図をどこまでも忠実に再現しようという、ある意味画期的なものと言えるだろう。

実際に映画「羅生門」で使用された宮川家所蔵の扁額の前で、左から宮島正弘氏、エリック・ニアリ氏、宮川一郎氏 実際に映画「羅生門」で使用された宮川家所蔵の扁額の前で、左から宮島正弘氏、エリック・ニアリ氏、宮川一郎氏 「MoMAだけでなく、ジャパン・ソサエティ、フィルム・フォーラムで上映が決まったことで、多くの映画ファンや映画を志す若者たちが、宮川作品に触れる機会が生まれたことは、私自身、父の偉業をきちんとした形で後世へ伝えることができるという使命をカタチにできたことで、ホッとしています」。
宮川さんの手元には、まだまだ多くのネガ、フィルムの断片、撮影時の写真、台本などが残されている。作品に触れ、日本映画が世界を牽引していた時代を一気に俯瞰できるという今回の企画の続編を、日本でも開催されんことを願うばかりだ。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、4月12日に新4Kリマスター版『浮草』の世界初上映ではじまり、『越前竹人形』(1963年)、『手をつなぐ子等』(1948年)、『炎上』(1958年)など、セレクションもまさにマニアック。
ジャパン・ソサエティでも4月29日まで12作品を紹介する。

(Text:Y.Nag)
(Photo:宮川家所蔵)

ジャパン・ソサエティ
https://www.japansociety.org/page/programs/film/miyagawa

ニューヨーク近代美術館(MoMA)
https://www.moma.org/calendar/film/4955

宮川一夫
1908年京都生まれ。18歳で日活京都へ現像部と助手として入社。その後、撮影助手などを経て、「お千代傘」(尾崎純監督・1953年)で撮影監督に。「無法松の一生」で高い評価を得たのち、黒澤明、小津安二郎、溝口健二、市川崑、篠田正浩など日本を代表する監督達と共に作品をものにする。中でも黒澤明監督との初作品である「羅生門」では、日本映画として初めてヴェネチア国際映画祭で金獅子賞、アカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞。代表作として「雨月物語」(溝口健二監督・1953年)、「用心棒」(黒澤明監督・1961年)、「はなれ瞽女おりん」(篠田正浩監督・1977年)などがある。特に「おとうと」(市川崑監督・1960年)で使われた“銀残し”という現像手法は、その後の映画に大きな影響を与え、デヴィッド・フィンチャー監督の「セブン」や「プライベート・ライアン」など現代でも多く使われる技法となった。
60年以上にわたり、40人以上もの監督と、136本の映画、TV映画8本を残し、1999年8月、91歳で他界。

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