Editor’s Eye

2018.02.21

Editor’s Eye

アップリンク代表 浅井隆氏

映画を楽しむ体験は、どんな立場の人にも平等なんだ


ー99年にアップリンク渋谷の前身「アップリンク・ファクトリー」をオープンされてから20年近く経ちますが、映画館に来場する人の数や客層など、時代によって変化を感じますか?

日本は少子高齢化で人口は右肩下がりだけど、東京は戦後右肩上がりで増えている。センター街をみていても、絶対的な若者の数が減ったからといって、歩く人の数は変わっていない。若い人たちもアップリンク渋谷にたくさん来てくれているし、女性も多い。デジタルネイティブな世代だから、SNSとかで辿り着いて来てくれているんだろうけど、彼らはアップリンク渋谷のような映画館を、秘密基地を発見したような感覚で面白がってくれてるんじゃないかな。少なくとも都心のミニシアターは、お客さんは増えていると感じるね。

UPLINK ROOM

映画のいいところは、チケットが基本的には誰でも一律1800円で、たとえ総理大臣や、天皇陛下、皇族、アラブの王様であっても料金は変わらない。大学生だったら1500円で、アラブの王様の息子が大学生なら、その子も同じ1500円。映画館の中ではどんな立場の人でも平等なんだよね。いくらプレミアムな指定席だとしても、一般人が払えない額じゃない。「映画を楽しむ」という体験は平等であって、お金がある人ばかりをターゲットにしていないところが、僕がこの仕事を好きな理由のひとつかな。

ーVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスの普及により、オンラインで映画が観れるようになったことで、映画館に足を運ぶ人が少なくなったということはないですか?

僕もネットフリックス(Netflix)やアマゾンプライムは観るし、だからといって映画館に行かないわけでない。選択肢が増えただけで、個人個人のライフスタイルに合わせた楽しみ方ができるようになっている。映画に触れる機会が増えるという意味では、どんどん活用した方がよいと思う。アップリンクでも、一昨年オンライン映画館「UPLINK Cloud」をスタートさせたので、ぜひ利用してください。

フィンランドのドキュメンタリー作品が、
日本の政治家をも動かすという奇跡


ー世界中から多彩なドラマやドキュメンタリー作品を配給されていますが、これまでに扱われた作品で浅井さんにとって特に印象深いものがあれば、エピソードも交えて教えてください。

日本を動かしたと思うのは、フィンランドのオルキルオト島にある、高レベル放射性廃棄物の最終地下処理場を描いたドキュメンタリー作品「100,000年後の安全」。買い付けは震災前にしていて、2011年の秋に公開予定だったんだけど、その年に起こった3.11(東日本大震災)と福島第一原子力発電所事故で世の中的に脱原発に関心が高まっていたから、4月に緊急公開したんだ。
震災直後は渋谷も計画停電があってコンビニも暗くて、アップリンクがやっているカフェレストランTabelaにも全然お客さんは来ないし、まだ余震があったりしてみんな暗くて狭いところになんかいたくないから、ましてやミニシアターになんか誰も来ない。「倒産するのかな…」なんて不安に思っていたときだったんだけど、その作品がテレビなどでもかなり取り上げられて、多くの人に観てもらえることなった。NHKでも放送されて、それを観た小泉元首相が現地まで行き、「脱原発」と考えを変えたほど。
「100,000年後の安全」特設サイト:http://www.uplink.co.jp/100000/

原発の恐怖があって、廃棄物のところまで人の意識がいっていなかったけれど、安全になるのは、気の遠くなるような10万年もかかる。「危険」て表示されているけど、10万年後に言葉は通じるのか。どうやって未来の人に「ここに核廃棄物を埋めた」と伝えるのか。映画ではそういう問題提起がされていて、あの福島原発の事故は日本を、世界を変える大変な事故だった、と観た人に強く認識してもらえたと思う。

ー映画には、社会や政治にインパクトを与えたり、人の価値観を変える力もありますよね。ジャンルも幅広いアップリンクさんが配給される作品の、ピックアップのポイントは何でしょうか。

“今”にこだわっているかな。もちろんクラシックな映画も映画ファンとしてはみるけれど、仕事として関わるならば、“今”の世界と関わっていきたいという気持ちがある。生きている監督とコミュニケーションをとって、来日してくれる監督には来日してもらって、なぜその映画を作ったのかを本人の言葉で日本のお客さんに伝えることを大事にしているね。

アップリンク渋谷 映画ポスター

ーアップリンク吉祥寺オープンの先に、計画している事業や、未来への目標はありますか?

映画を扱うプロフェッショナルとして、映画の配給と映画館運営を一貫して行ってきている身としては、全国にもっと映画館を作りたい。映画館を運営したいという人にコンサルティングしたりとか。都心にも、アップリンク渋谷や吉祥寺のようなミニシアターコンプレックスの入る隙が、探せばまだまだあると思う。関西方面も話は進めているところなんだけど。
あと、僕はアートの島、直島が面白いんじゃないかなと思っていて。あそこは実は遊ぶところもそんなに多くないし、夜になったらやることがないんだよね。だからアートな映画ばかり上映して、空間も作品にリンクさせて、関連したフードも食べられるめちゃくちゃ変わった映画館を作ったら、世界中からたくさんの人が来ているし受け入れられそう。東京勤務に疲れたスタッフをローテーションで派遣したりさ(笑)。そういったいろんなタイプの映画館をこれからも作っていきたいね!

(Text:Nao Asakura)
(Photo:Yuuko Konagai)
浅井 隆(あさい たかし)
アップリンク社長/webDICE編集長
1955年大阪生まれ。1974年演劇実験室天井桟敷に入団し舞台監督を務める。1987年アップリンクを設立。デレク・ジャーマン監督作品をはじめ、国内外の多様な価値観を持った映画を多数配給。カンヌ映画祭に出品された黒沢清監督作品『アカルイミライ』などの製作プロデュースの傍ら、2005年には渋谷区宇田川町に映画館、ギャラリー、カフェレストランを一か所に集めた総合施設『アップリンク渋谷』をオープン。2011年にデジタルカルチャーマガジン『webDICE』、2016年にはオンライン映画館『アップリンク・クラウド』をスタート。映画だけに留まらないインディペンデント・カルチャーを発信し続けている。アレハンドロ・ホドロフスキー監督の2017年公開作品『エンドレス・ポエトリー』では、共同プロデューサーを務めた。

アップリンク
http://www.uplink.co.jp

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