BIRTHDAY STORIES

2015.07.27

BIRTHDAY STORIES
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Birthday Stories Vol.04
『But First Coffee』

LiLy



 まるで男みたいな名をした私の女友達は、何故かすこぶる男にモテる。

 ツカサとは、中学二年の春に知り合った。私たちの苗字は「鈴木」。一学期の時に席の順が前後だったことが、繋いだ縁。それが、かれこれ十年以上続いている。

 私の名は、モモカ。

 ツカサと同じ苗字に、同じブラのカップ数。見た目のレベルだって、たぶん、そんなにたいして変わらない、だけどーーー。

「彼が私のことをどう思っているのか、がよく分からないの。つかめないっていうかぁ」

 日曜日のスターバックスは混んでいて、列に並びながらツカサが振り返って私に言う。

「でも、次に会う約束はもうしてあるんでしょう? なら、脈アリだよ〜」

 店員に手渡されたメニュー表に視線をわざと落として、私はなるべく明るい声をだす。

「ん〜、そうなのかなぁ。でも、それもまだ分からないのよ。仕事が入る可能性があるから仮で押さえといて、みたいな感じだから。でね、文章は敬語のくせにね、」

 恋をすると、ツカサは止まらない。ずっとその男の人のことを考え続け、話し続ける。

 初めて会った日から、ツカサは変わらない。真後ろの席に座っていた私のほうを、今とまったく同じように振り返り、同じようにケイタイを手に持って、好きな男子から入ったメールを他人同然の私に見せてきた。

「こんな感じのギャグ系ばっかりってことは、色っぽい雰囲気では私のこと見てないってこと? ねぇ、モモカ、どう思う?」

 この十年で変わったことといえば、ガラケーがスマホに、ショートメールがLINEに、私が解読させられるーー男が送ったーー絵文字がスタンプになったことくらいだ。

 あ、たすかった。列がすすみ、ツカサがレジの前へと移動した。頼むものなら知っている。

 ブラックのアイスコーヒー、サイズはグランデだ。

 巻き髪とワンピースがよく似合うガーリーなツカサなのに、そういうところはいきなりとても男らしい。このようなギャップが異性を惹き付けるのだろうか、なんてことを考えていたら、目の前でふわっとツカサの長い髪が揺れ、いつものベビードールの甘い香りがした。

「モモカに、これ、プチプレ♡ いつもハナシ聞いてくれるお礼〜」

 私は知っている。男がツカサに送る阿呆みたいなスタンプは、距離を縮めたいと思っている証拠。この男との約束がもし流れてしまったら一緒に過ごそうと約束している、ちょうど今日から一週間後の日曜日は、ツカサの誕生日。念のために、保険として、空けといてあげるけれど、その必要なんて実はない。

 私には分かる。男は、何があっても駆けつける。

 恋を繰り返すツカサを十年も見てきたのだ。すべてが同パターン。この恋にも、半年くらいでツカサは飽きるが、私はツカサに飽きない不思議。

 私が誰よりも知っているのは、親友という名の女の魅力。

 思っていたとおり、ポッカリ予定が空いた日曜日。ツカサの恋がまた見事に実ったことに、何故かほんの少しだけ、心が沈む。ここからさらに落ちてゆく重力を感じる。

 そういう時は、まず、コーヒー。

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 ツカサがくれたStarbucks eGiftを使って、私はスターバックスに行って、列に並んで、順番がきたら、いつものキャラメル マキアート、ホット、トール、を注文する。ひとりがけのソファに腰を下ろしたら、あたたかいマグカップ片手にきっとツカサに、お誕生日おめでとうLINEを入れる。

「コーヒー、ごちそうさま。改めて、私にも、お祝いさせてね♡ 今日は思いっきり楽しんで♡」

 私は知っている。バースデー初デート真っ最中のツカサから返事がくるのに、きっと一分もかからない。そして、半年後にはまた彼女は目の前の席へともどってきて、私はまた男が送ったスタンプの解読に励むだろう。

 そんなことを考えながら、スターバックスの列に並んでケイタイの液晶画面を見ていたら、彼氏からLINEが入った。でも、返事を打つ前に、まずはツカサにおごってもらったコーヒーをゆっくり飲みたい。

 ハッピーバースデー、マイガールフレンド。
 いつだって、あなたのしあわせを祈ってる。

(Text: LiLy)
(Graphic: TPDL)

presented by STARBUCKS eGift
https://gift.starbucks.co.jp/


LiLy
NY、フロリダでの生活を経て、上智大学外国語学部卒業。著書には小説『11センチのピンヒール』『オンナ』『me&she.』。二十代女性独特の恋愛観やセックスを描いたエッセイ『タバコ片手におとこのはなし』など多数。「NYLON」、「オトナミューズ」など、ファッション誌を中心に多数連載を持つ。

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