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2015.09.23

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陽気さとあやしさが漂う世界へ



モロッコは、地上に降り立つ前から既におかしかった。
フランスのマルセイユからマラケシュ行きの飛行機の中、空港の滑走路へ着地した瞬間に拍手が沸き起こる。
拍手が鳴り止む間もなく、機内放送でおめでたいファンファーレが流れ出した。飛行機の中にしてはあまりに陽気な空気にこらえきれず、思わず1人で吹き出してしまう。
この話をすると「無事に着陸することが稀なの…?」と訝しむ人もいるが、おそらくただ盛り上がりたいだけなんじゃないか、と思う。

席を立つと、隣に座っていたおじさんがこちらに向かってさっと右手を差し出し、「Welcome to Morocco!!!」と満面の笑みで言ってくれた。固い握手を交わしてようやくタラップへ向かう。まだ飛行機を降りてもないのに、この国はおかしくてたのしい。

マラケシュのジャマエルフナ広場は毎晩祭りかというような盛り上がりで、その賑わいは深夜まで続く。
屋台が並ぶ一角では客引きも多く、初めはかなり警戒した。他の国で客引きの誘いを断るといきなり冷たくあしらわれたり、断ってもしつこくついてくることがあるので、声かけに対応をするのが億劫だった。(インドでは至近距離でも聞こえないふりをした)

やはりここでもあちこちで「おいしいよ!どうだい!」と声をかけられる。
しかし「今日はもう食べたから」と言うと、驚くほど晴れやかな笑顔で「そうか!じゃあまた明日だな!」と大きく手を振ってくれる。
新鮮な反応に笑ってしまい、つい「OK!」と応えていた。

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マラケシュでは日本人女性が経営する日本人宿に宿泊した。
在住8年になるその女性に、モロッコの魅力を尋ねてみる。

「モロッコにはきっと一生解けないだろう謎がある。
 モロッコはそのあやしさが、何よりも魅力」

夜のマラケシュはただ陽気なだけではない、底知れぬあやしさが漂う。
他の国の治安が悪い地域のそれとは違う、おそらく日本で生まれ育ったわたしには一生垣間みることの出来ない霧の向こう。

イスラム独特の衣装や習慣がそれを感じさせることは間違いないが、おそらくそれだけではない。わたしたちが知り得ない、彼らにしか覗けない世界が確実に広がっている。モロッコには見えない奥行きがある。

解けない謎とは分かっているし、おそらく解きたいわけでもない。
たった1週間の滞在だったが、陽気な国民性とは裏腹なその深い霧に、まだもう少し漂っていたいと思ってしまう。

(Text&Photo: Yuko Ohba)


Yuko Ohba
seitaro design, inc./グラフィックデザイナー
TOKYOWISEのサイトデザイン、記事のグラフィックを担当するデザイナーの1人。3ヶ月間休職をし、世界各国を周遊してきた。
Instagram:@ohbayuko

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