2017年、恋したいあなたに。 映画「男はつらいよ」に学ぶ 寅次郎の恋愛処方箋  Lessons About Romance by Tora-san

2017.01.31

vol.15 TOKYO NEXT


寅さんと恋愛の言葉


「お嬢さん、お笑いくださいまし、私は死ぬほどお嬢さんに惚れていたんでございます」
第1作『男はつらいよ』より


第1作では帝釈天の御前様のお嬢さん坪内冬子(光本幸子演)という高嶺の花に、寅さんは岡惚れをします。向こうは幼馴染だと思っている冬子に対し一方的に恋をし、突如彼女の婚約者が現れて寅さんは落ち込みます。初恋にはありがちですが、自分の思い入れだけでぶつかって勝手に傷ついてしまいます。初めてこの豪快な大失恋をした時に、寅さんは「お嬢さんお笑いくださいまし、私は死ぬほどお嬢さんに惚れていたんでございます」というストレートな心情を、モノローグで泣きながら語ります。でも、実はこうした愛の言葉を口にしたのは、全作を通してこの時一度だけなんです。この時、寅さんは36歳の設定なので初恋ではありませんが、求めても得られないことの切なさを山田洋次監督はここで描いています。

「めぐりあいが人生ならば、素晴らしき愛情にめぐりあうのも、これ人生であります」
第7作『男はつらいよ 奮闘編』より


寅さんは第1作の大失恋を経験した後も、しばらくは高嶺の花への岡惚れ、勘違い的な恋愛を続けます。第7作では知的障害を持ちながらも無垢であどけない太田花子(榊原るみ演)に出会い、寅さんの中に放っておけない、守ってあげたいという感情が芽生えます。この時、寅さんは花子が青森まで帰るためのお金を工面してあげますが、好きな人に対して何ができるのかという行動に初めてでます。その後、しばらく柴又で一緒に生活するなかで、花子との結婚を意識し始める寅さんでしたが、彼女は故郷へ帰ってしまいこの恋は終わります。しかし、守護天使となって人を愛する経験をしたこの回から、恋愛観はどんどん深くなっていくのです。

「父親と母親がいて、子供がいて、にぎやかに夕飯を食べている。これが、これが本当の、人間の生活というものじゃないかね、君」
第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』より


第8作では、帝釈天のほど近くに喫茶店を開店した、シングルマザーの六波羅貴子(池内淳子演)に思いを馳せます。女手一つで店を切り盛りしながらの一人息子と貴子の暮らしに、寅さんは自分も入って、二人を幸せにしたいというリアルな夢を抱くのです。しかし、寅さんと貴子が「旅の暮らし」を語り合うシーンで、自分を現実逃避の憧れとして見ている貴子との溝を感じ、自分は定住者にはなれないと気が付かされます。そこでスッと立ち上がって、彼女の幸せは自分が負えるものではないと悟り、身を引く寅さんは、切なくもとても格好良いです。自分が身を固めて堅気になろうと思った相手でも、住む世界が違うと線を引くことを覚えたのです。そこからの寅さんは、自分が恋をしても伝えない、まずは相手の幸せを考える、相手のために何をしてあげられるのかを考え、行動することができるようになっていきます。

「いいかい、恋なんてそんななま易しいもんじゃないぞ」
第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』


第10作では幼馴染の志村千代(八千草薫演)に、「くるまや」の2階に下宿する東大助教授の岡村先生が岡惚れし、そのキューピット役を務めることとなった寅さん。「いいかい、恋なんてそんななま易しいもんじゃないぞ」と命がけで恋をするべきと恋愛論を語ります。しかし、自分の気持ちをさておき岡村先生の気持ちを伝えると、勘違いした千代は「寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいい」と寅さんに告白をします。その素直な想いに寅さんは尻込みし、結局二人はそのままお別れすることに。寅さんという人は恋をしたり、相手を眺めて愛でることはできても、相手と共に過ごす喜び、リアルに付き合うということでお互い裸になることへの抵抗があったんじゃないかと思います。

「男が女を送るっていう場合にはな、その女の家の玄関まで送るっていうことよ」
第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』より


寅さんは段階を経て、豪快な失恋をしていくなかで、「人が人を想うこと」の達人になっていきます。寅さんと出会うことで、女性たちがなぜみんな幸せになれるのか。それは寅さんの力ではなく、その力をきっかけに、自浄力、自己成長力で変わっていくんです。そんな中で、寅さんがいないとダメだという特別な存在が、第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』のリリー(浅丘ルリ子演)です。旅回りの歌手で気心の合う彼女だけは、寅さんとイーブンな関係であり、主語のない会話ができる、つまり本当のパートナーだったんです。お互い根なし草同志、心が通っていたにも関わらず、言葉にできない寅さんはこの恋も逃します。 しかし、山田監督の凄いところが、最終作では何の説明もなく、意外な展開で寅さんとリリーが二人で同棲しているシーンが登場します。もはや恋がどうのという空気感は二人の間にはなく、男女の面倒なことを超えたところのつながりや愛を感じさせてくれました。

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