「遊ばないの。暮らす街なのよ」喫茶「邪宗門」ママが語る変わらない荻窪の魅力 Sweet Home OGIKUBO

2017.06.19

Vol.18 中央線快速物語

大きな変化とともに、住民に愛され続ける北口。


対して、大きく変化したのは北口の方だ。北口には、駅前に大型ショッピングセンターや飲食店、ゲームセンターなどが並び、車やバスがせわしなく通り、今の荻窪を象徴している。北口の住宅街は一軒家もあれば小さいアパートやマンションもあり、若い人にはこちらの方が馴染みやすいかもしれない。

荻窪北口 大型ショッピングセンターが立ち並ぶ北口駅前。

そして北口エリアを歩いていると「ん?なんだここは」という通りがある。それは「荻窪北口駅前商店街」だ。すぐ側には大きい駅ビルがそびえ立っているエリアに、こじんまりと小さいお店がひしめきあっている。


実は昔、この北口に広いロータリーも駅ビルもなかった。あったのは、巨大なバラック街だ。そこには八百屋や生活品を買うお店や、飲食店がカテゴリ別に並んでいたという。八百屋などが集まっていたエリアはTOWN SEVENになり、映画館は西友になり、時代とともに様々な場所が消えていったが、この商店街だけは生き残ったのだ。
今回はその中にある喫茶「邪宗門」にお邪魔し、ママの風呂田さんにお話をお伺いした。

邪宗門のママ 風呂田和枝さん
邪宗門のママ 風呂田和枝さん

荻窪の邪宗門はレトロモダンな店内に、ひっそりと流れるクラシック。サラリーマンのおじ様から若者が話しこんだり、来る人は様々。

もともと風呂田さんは、九州から荻窪の地に上京してきた。東京で働くため、なんとかしなければ。そこで、喫茶店を開かれた。
当初、荻窪というテーマで話すのは難しいと仰っていた風呂田さん。中央線出身の当編集長と一緒に、ざっくばらんにお話をさせていただいたが、いろいろな荻窪のこれまでの歴史を教えていただいた。

それは、今からは想像がつかない荻窪だった。なんと昭和30年頃の荻窪には、北口と南口をつなぐ踏切があったという。ただ、あかずの踏切だったので、駅員さんに「南口にいきます!」と言って、線路の改札の中をタダで通らしてもらったとか。そんな、おおらかな時代もあったという。街の開発が進んでいくなかで、映画館が4つもできたり、ストリップとかもあったけれど、すぐになくなってしまったそう。
その理由を、風呂田さんはこう話す。

「荻窪は遊びにくるんじゃないんですよ。住む街なんです。見て歩くようなところはないんです。新宿や吉祥寺とかに遊びにいくような感じじゃないのよ。ここらへんも食べ物やさん(飲食店)ばっかりだから。お仕事にいっても、お家にかえるだけ。街並みは変わっているけれど、住宅街であることには変わりないの。」

昔、荻窪に住んでいた方が遊びに来て、邪宗門を見つけて入ってくれることもるという。邪宗門は、今も昔も住んでいる人に愛され続けているお店なのだ。

邪宗門では、ゆったりとした時間が流れる。
邪宗門では、ゆったりとした時間が流れる。

くうねるすみか、荻窪に住まう


こうして荻窪の街歩きは終わったが、ママに言われた言葉が心に残っている。
「荻窪は遊ばないの。暮らす街なのよ。」

南口は高級住宅街らしく、その静けさを守るように在り続ける。北口は大資本のチェーンができるなど大きな変化はあったが、住みやすく、今の荻窪住民に親しまれているのだ。店も人も揃うけれど、わざわざ荻窪にこなければ経験できないような、特殊なものを持とうとしない。だけど、暮らしやすさは進化し、様々な人を受け入れる。それは、冒頭にあった、働くママSさんの言葉「どんなステージでも、楽しめる街」につながっていく。

くうねるすみか、荻窪。きっとみんなが心地よく住むことに重きを置き、改善を繰り返してきたのだろう。そこにあるのは、荻窪という街に対する意識の高さだ。


この街に住めたなら、やってみたいルートはこちら。
土曜日、お昼過ぎに起きたなら、まずは北口にラーメンを食べにでかけよう。満腹になったら、南口を出てぶらぶらと大田黒公園を歩き、中央図書館で本を借りてみる。おやつに邪宗門でコーヒーとケーキをいただきながら本を読み、夕方になったら温泉に入ってビールと焼き鳥でもひっかけよう。そこには、平日の疲れをとる最高の癒しが待っている。いや、まてよ。それは昔と変わらない、作家の気持ちを感じることができるかもしれないのだ。

(Text&Photo:ゆかこ&TOKYOWISE編集部)

太田黒公園
住所:東京都杉並区荻窪3-33-12
開園日:1月2日〜12月28日
開演時間:9:00〜17:00
施設:茶室
記念館(9:00〜16:00時公開)

邪宗門
住所:東京都杉並区上荻1-6-11
営業時間:16:00〜21:30
定休日:不定休

参考図書:井伏鱒二著「荻窪風土記」新潮社

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