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2014.10.01

vol.2 TOKYO 30s girl
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Bravo! NIPPON
古事記アーティスト・吉木誉絵さんが語る『古事記』の魅力、いにしえの女たち

古事記は、今から1300年前に編纂された日本最古の文書であり、歴史書だ。
淡路島をはじめ、日本列島を形づくる国や神さまをたくさん産んだ日本最初の夫婦、イザナギノミコトとイザナミノミコトの神話や、初代天皇の神武天皇が即位した2674年前のことまで、日本の建国の経緯において大事なことが「物語」として伝えられている。

しかし、口伝いに「コジキ」と言うと、今の若者のほとんどは、「ホームレス」を連想してしまうらしい。「自分にはまったく関係のないことだと思うかもしれませんが、日本人なら誰にとっても、身近なことが描かれているのが古事記なんです」。そう語るのは吉木誉絵(よしきのりえ)さん。古事記と日本の歴史に精通した才女でありながら、自身を媒介として、国内外にその素晴らしさを伝えるアーティストでもある多彩な女性だ。

「朝まで生テレビ」や「たかじんのそこまで言って委員会」など、メディアでの社会的発言にも注目が集まる吉木さんに、古事記の魅力といにしえの女性たちについて、たっぷり語っていただいた。“日本人に生まれて、幸せ”― 彼女の話を聞くと、きっとこんな想いが胸に湧いてくるのではないかと思う。それでは早速、ご覧いただきたい。

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吉木誉絵 
古事記アーティスト・作家
東京生まれ。アメリカ・ノースダコタ州の高校を卒業後、Temple大学(ジャパン・キャンパス)にてAsian Studiesを専攻。同校を卒業後、慶應義塾大学大学院研究科公法学憲法専攻を修了。神職の資格を持つ。旧皇族の竹田家に生まれ、明治天皇の玄孫である作家・武田恒泰の愛弟子。古事記を題材にしたクラブイベントの開催、ジャパン・エキスポ(2012)でのパフォーマンス、執筆、公演、テレビやラジオへの出演など、古事記の精神を広めるべく、多岐にわたり活動。山梨県の身曾岐(みそぎ)神社でPV撮影を行ったセカンドシングル「Regalia」が10月中旬発売予定。

古事記とは、DNAレベルで刻まれている「和の精神」がつまった日本人のルーツ TW_kojiki3

──そもそも古事記って、誰がどのように作ったものなんですか?

吉木誉絵さん(以下、吉木):元々、古事記はバラバラの物語だったんですね。伊勢には伊勢、出雲には出雲というように、それぞれの信仰があり、土着の物語がありました。それをひとつにするための編纂命令を出したのが、天武天皇です。「各地にはたくさん歴史というものが残っているけれども、いよいよちゃんと伝わらなくなってきた。今こそ、きちんと残しておかないと、後世には正しく伝わらないだろう」。これは古事記の序文にも書かれている天武天皇の言葉で、こうした想いから編纂命令に至ったんですね。その命令を受けた太安万侶(おおのやすまろ)と稗田阿礼(ひえだのあれい)という2人の大天才が、タッグを組んで編纂していきました。それが1300年前のことです。

── 今でいう取材・編集・出版に至る全作業をたった2人で成し遂げたということですか?

吉木:はい、太安万侶(おおのやすまろ)は、物語を文字に起こした人で、音を漢字にあてていきました。これは万葉仮名と呼ばれており、日本のひらがなの元祖的存在です。稗田阿礼(ひえだのあれい)は、記憶力が抜群の才人で、日本各地の物語を聞いて、誦習していたといわれています。先ほど、古事記は元々バラバラの物語だったと言いましたが、2人の偉業をたとえるなら、世界三大宗教のイスラム教、ユダヤ教、キリスト教、このまったく異なる3つの教えをひとつにまとめるような壮大なプロジェクトだったんです。

しかも、それが神話という物語の形をとって、今の私たちにもちゃんとつながっています。たとえば、お箸を使う、ごはんの入ったお茶碗を左側に置く、お風呂好きできれい好きといった、日本人なら当たり前のこととして日常的に行っている習慣の数々は、古事記にすべて書かれています。価値観や美徳や美意識、あるいは信仰といったことまで、古事記には「日本人のルーツ」と「和の精神」が凝縮されていて、それらは、私たちが意識する、しないにかかわらず、すでにDNAレベルで刻み込まれています。古事記は、日本民族の魂の結晶。今、こうして現代に受け継がれていることは、奇跡だと思います。

──吉木さんのいう「和の精神」って、具体的にどういうことですか?

吉木:「調和」と「平和」の精神だと私は思っています。古事記には、争い合うのではなく、できるかぎり「話し合い」を通して、神々や人々が、国を統一していった様子が多く描かれています。例えば、伊勢神宮をはじめ、広く祀られている天照大御神(アマテラスオオミカミ)という女性の神様がいます。何かひとつ策を決定する時に、トップダウンで、「はい、これ決定。皆さん、やりましょう」という感じではなく、まず、神様たちを集めて、「この問題、どうしよう?」「解決するためにはどうしたらいいと思う?」と相談し、意見を交わし、決めていくという“合議制”でした。

これは、おそらく現代の日本でも多くみられる問題解決の方法ではないかと思います。司法の現場でも、アメリカに比べると、訴訟まで発展するケースは極めて少なく、なるべく和解にもっていく方向で解決しようとしますし、「話し合い」でものごとを解決する傾向はどの国よりもおそらく強いですよね。それがすでに何千年も前から、この国で行われていたということは、私たちの祖先ともいえる、いにしえの人々とのつながりを感じられる、興味深いポイントだと思います。

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