2017.09.04

Vol.20 アツい東京

A&Dにある催眠作用


前置きが長くなってしまったが、そういうわけで、ここでは「アンビエント・ドローン」ミュージックをひと括りにして語ることにする。A&Dは静かで瞑想的、要素が多すぎないというのが特徴。つまり、リラックスしたり、気分を落ち着かせたり、眠れないときに聴くのにもってこいの音楽なのだ。ではなぜ、A&Dにはそのような作用があるのか。

「眠れないというのは、思考が止まらない状態ですよね。A&Dは静かで単調なので、聴いていると思考の循環が途切れる効果があるのかもしれません。物語性のあるクラシックだとそちらに意識が行き過ぎて覚醒してしまいますし。」

私も以前、ドローンミュージックのイベントに行ったとき、そのミニマルな音の持続に心地よく意識を陶酔させ、爆睡してしまった記憶がある。ハッと起きて、隣を見たらその客も頭を垂れて眠っていた。畠山氏は、自分の制作した曲の音をチェックするときさえも寝落ちしてしまうことがあるという。おそるべきA&Dの催眠作用だ。実は私は娘が赤ちゃんの頃に、このA&Dの催眠効果を利用し、大いに助けられていた。なかなか泣き止まない娘にA&Dを聴かせたところ、よく眠ってくれたのである。
これは、「赤ちゃんが泣くのは、部屋に何かしら不安要素があるから。A&Dは”周りの環境を整える”ために作られているわけだから、赤ちゃんに安心できる場所だということを伝えられているのかもしれない。」と畠山氏。娘と同学年のお子さんをもつ畠山氏もオリジナルのA&DミックスCDを制作し、赤ちゃんの頃に聴かせていたという。(この手をなかなか思いつく人はいるまい…)

お寺や教会で聴くのがベスト!A&Dのライブ


このA&Dのライブなのだが、お寺や教会で行われることがしばしばあり、私も大森のお寺に足を運んだことがある。

「普通のライブハウスはロックバンドが演奏する想定で作られているのでサウンドシステムがA&Dのライブには合わないんですよ。教会やお寺というのは、非日常を演出するために作られた建築物でしょ。音楽も目に見えないものだし、自分と知らない世界が繋がっている感覚を体験する、という意味では場所として適していると思います。そもそも教会は賛美歌など歌う場所だから音響環境ができているし、お寺の方は畳が吸音してくれるから、リヴァーブ※2を多用するA&Dは、より自然な音でお客さんに伝わりやすいですね。お客さんも寝そべって聴けたりするので気持ちよいですよ。」

ちなみにお寺側は、昔エンターテイメント施設のない時代に、人が集まって映画などを観ていたという文化の名残で、住職さんが善意でこういった音楽イベントに場所を提供してくれるそうだ。

※筆者撮影
畠山氏は、季節の変化がもたらす匂いや海などの自然、歴史的な事象や映画、小説などの物語からインスピレーションを受けて曲を創作するのだという。

「例えば素晴らしい海を見ても言葉だと”美しい”くらいにしか言い表せない。A&Dはインストなので、そういった言葉にできない詩的な感情を自分の中で消化して、作品に反映していけるんです。社会情勢や、時流なども作品に影響することはあります。最近は、無意識に暗い音になっていたりとか・・」。

A&Dは、リスナー側も壮大な大地や川などの情景が浮かぶことが多いが、作り手がそれに着想を得ているならば、ダイレクトに伝わってきているということだ。また、A&Dに、わざと紙がくしゃくしゃになる音とか、椅子のきしむ音、街の雑音などの“ノイズ”を入れる手法がある。これは、「ノイズ的な音を入れないと、曲がただ甘いだけの音楽になってしまう。ノイズは料理でいうところのスパイスですね。スイカに塩をかけるみたいな。例えばカナダのA&Dトップアーティスト、Tim Heckerの作品は、スパイスの方を全面に出しているから、人によっては刺激が強すぎるんでしょうね。辛すぎるカレーみたいな。」なるほど、先日来日したTim Hecker氏のライブを観に行ったのだが、フロアから突き上げてくるような重低音に、直前に食べた夕食が胃から逆流しそうになった。途中で気分が悪くなって退出した女性も何人かいたらしい。しかし、辛すぎるカレーを食べたがる人がいるように、スパイスが強すぎるA&Dが好物な人もいるのだ。

NEXT>>A&Dは、現代人に必要。

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