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2014.10.20

vol.3 The Movement-TOKYO 2014-2015
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半年ほど前からやけに気になる言葉がある。最近では巡り巡ってその語感が妙に心地良くなってきた。それは特に年下の女性との会話で頻出する──今回は、あなたもきっと口にしている「ホントですか?」について少し考えてみた。

ことの発端は真面目そうなタイプのOLの子(25)と洒落たレストランで食事している時だった。その夜、彼女の髪型が凄く素敵に見えたので本心から伝えた。

「その髪型、似合ってるね」
「えっ、ホントですか?
「うん、いい感じだよ」
ホントですか?

たった5秒くらいの会話で2回登場。これを機に彼女は約2時間の食事中、軽く100回以上は「ホントですか?」を口にしていたと思う。「ここのパスタ、凄く美味しいんだよね」「ホントですか?
「デザート好きなの選んでいいよ」「ホントですか?
・・・あぁ、この子の口癖なんだなと思い、帰り道に訊ねてみた。

「○○ちゃんって、口癖あるよね」
「えっ、ホントですか?
「あっ、それ。『ホントですか?』って」
ホントですか? あっ、また言っちゃった」

余談だが、恥じらう笑顔とつい出てしまったタメ口がむしょうに可愛く思えて仕方がなかった。そして彼女は言われてみればと振り返り、「周囲の友達や同僚はほぼ間違いなく、しかも無意識に使ってます。先輩や上司との会話では“相槌ち”のようなものなのかもしれませんね。中学時代から学校や塾の先生にも自然に使ってましたよ」と説明してくれた。

要するに「マジで?」と同じニュアンス。関西のオッサンがよく口にする「その話ホンマでっか?」、あるいはタワーマンション在住夫婦の朝の会話「今日は接待で帰りが遅くなるから夕飯はいらないよ」「あなた、ホントに?」といった“大いなる疑念”の類いとは違う。
年下が年上との会話中、絶妙なタイミングで間を埋めたり、伝えづらい言葉や感情の代用として機能する現代便利用語。それが「ホントですか?」の実体だ。

しかし、こちらが何を言っても向こうから返って来る第一声が「ホントですか?」というのも考えものだ。一つ間違えれば、言われた方は馬鹿にされているような錯覚に陥ってしまう。そこには何か社会的なメッセージが隠されていてほしいと願う気持ちもあり、10~20代女性のマーケティング調査を専門に行う会社の取締役M氏にこの件を振ってみた。

「あぁ、それはきっと疑い深さじゃないですかね。不安な就職氷河期を生きてきたし、何でもネットで検索してソーシャルで交流する世代ですからね。そういうのって不確かな情報も否めないじゃないですか。こんな世の中ですから信じられないっていうか・・・いや、考え過ぎだな。あの子たちの単なる口癖の一つですね。ハッハッハ(爆笑)」

Mさん、ホントですか? その見解、貫いてほしかったです。あとここだけの話、30~40代の女性もけっこう多用しているんですが。
次に、女性スタッフにいつも囲まれているイベント制作会社社長のY氏に投げ掛けてみた。ちなみに彼は男気ある真っ直ぐなキャラで知られる。

「会議でこっちがいろいろと話してたら、女の子たちが何かと「ホントですか?」って連発してくるから、「嘘なんか言ってねえよ!!」って怒鳴ったら、みんなずっと黙っちゃって。ちょっと強く言い過ぎたのかもしれません」

Yさん、それは沈黙(サイレント)ではなく凍結(フリーズ)です。一体何ワケわかんないこと言ってんのこの人!?って、彼女たちは北極に立っている気分だったでしょう。

そんなある日の昼下がり、閑散としたあるカフェでの出来事。コーヒーを飲みながら資料を整理していると、どこからともなく女の子の声を通じて例の台詞が聴こえてくるではないか。

「この項目はそこに入れたら駄目だよ。そっちの数字と合わなくなるから」
ホントですか?

外回り途中の同じ会社の上司(推定35)と部下(新人)だろうか。カウンター席に並び、開いたパソコンにはエクセルが映っている。営業シートの打ち込み方法をレクチャーしているようだ。そしてこの上司が時々冗談も言う。

「今日はいい天気だなぁ。仕事なんか切り上げて、今からディズニーランドに行ってみるか」
「えっ、いいんですか?」

おい、新人。そこでこそ「ホントですか?」を使え。挟み込め。

それから男女関係における「ホントですか?」にも十分気をつけた方がいい。流行都市TOKYOに生息する女の子たちは、肝心な時にここぞとばかりこの軽やかな響きを奏でてくる。相手に委ねるというあのパターンだ。例えばレストランやバーを出た後の路上で、

「これからウチ来て飲まない?」
ホントですか?

それがもし小鳥のさえずりのように美しく舞うように聞こえたら、二人はその夜ハッピーな関係になる。女の子はその一言を待っていたのだ。
ホントですか?」(キタァー、よっしゃー!の意)
しかし、その微笑みに偽りや歪みといった負のオーラが漂っていたなら、二人はもう二度と会うことはないだろう。
ホントですか?」(マジで言ってんの? 誰が行くか!の意)

最後に、元国際線CAであり、現在は法人企業のマナーコンサルタントである尾崎まみさんにも話を訊いてみた。

「『その髪型、似合ってるよ』と言われて、『どうもありがとう』と返すのは欧米的な表現です。分かりやすいですけど、強い女性をイメージさせます。一方で『ホントですか?』って日本人気質的な謙虚な表現ですよね。照れ隠しもあると思います。ただ『ホントですか?』は、会話の流れによっては相手に勘違いさせてしまう危険性も秘めてますね。逃げの言葉で使うのもどうかと。心や態度が伴っていないと言葉は嘘になりますから、その点も気をつけて使ってほしいですね」

「ホントですか?」は恋愛発展段階における甘い罠でもあるので要注意。読み解くセンスもTOKYO紳士のための必須スキルとはいえ、淑女の皆さん、どうか悪用乱用はお控えください。

(Text : Tokyo Psycho
(Illustration: いなばゆみ)


~少し役に立つかもしれない「ホントですか?」問答事例~

●キャバクラ編
「こいつさ、公家顔してるでしょ。ガキの頃、庭で蹴鞠して遊ぶのが日課だったらしいよ」
ホントですか?」(くだらない嘘言ってんじゃねーよ!の意)

●機内CA編
「あの、コレ、良かったら連絡してください」(番号とメールが書かれた名刺)
ホントですか?」(するワケねえだろ! こっちは仕事中じゃ!の意)

●占いの館編
「あなた、今月きっといい出逢いがありますよ。金運も上昇してるわ」
ホントですか?」(信じます。ありがとう!の意)

●女性が最も可愛く見える使い方
「○○ちゃんって、口癖あるよね」
「えっ、ホントですか?
「あっ、それ。『ホントですか?』って」
ホントですか? あっ、また言っちゃった」


*文中の「ホントですか?」の色づけについて
ホントですか?(オレンジ)=ポジティヴ活用
ホントですか?(ブルー)=ネガティヴ活用

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