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2015.04.08

vol.5 TOKYO STANDARD

東京R不動産 林 厚見氏インタビュー


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「toolbox」とは何か?

──「東京R不動産」の成り立ちというのは、極論すれば、ちゃんとリノベーションすれば面白く住める物件が、東京にはまだまだあるというところから始まっているんでしたよね。

:そうですね。始まりというか、今も基本的には変わらないのですが、都市の隙き間で打ち捨てられたような物件を探して、その隠れた価値を発見して伝え、人につないでいくという面白さがありました。

──そしてこの10年くらいで徐々にそういうことがカッコいい、おしゃれだ、ということになって広がり、リノベーションも一定のマーケットができてきたと言っていいのかな。

:そういう状況はありますね。でもそうなってある程度広がってくると、やっぱりまたその隙間で新しい軸というかテーマが出て来るわけで・・今で言うならDIY的な要素、つまり住まい手自身が家づくりのプロセスに深く関与するというかたちが生まれてきていますね。ある意味ではそれは、リノベーションの原点に戻るような面もあるわけですけど、アートっぽいゲリラっぽいノリではなく、もっとFUN(楽しみ)なトーンですね。

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──R不動産が始めた「toolbox」もその流れですか?

:関係はあります。ただ根っこにあるテーマ、背景は編集権の移動ってことです。これはCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の増田さんが仰ってる事なんですけど。

──どう言う意味ですか?

:音楽をiTunesで聞いたりサンプリングして楽しむように、色んなものをユーザーが自分に合うように編集するようになる流れは進みます。家づくりも、メーカーや建築家が「どうだ!」と隅々まで決めてしまうのは徐々に物足りなくなっていくかもしれないなと。そこで、住み手つまりユーザーが、自分の思いで家を編集するようにつくるための手立てや場をつくろう、という発想になってきたわけです。そして、家の空間をつくるための手立てを全部アプリケーションのようにしてみようと。

──アプリケーション化する?

:家の空間をいじっていくことを分解していくと、壁を立てるとか、壊すとか、ペンキを塗る、壁紙を貼る、風呂をデザインする、棚やフックを付けるとか、色々あるわけですが、そういうことを自分で一つ一つ選んでいったり、断片的に職人に頼んだり、ものによってはDIYしたりできるようなイメージです。ちょっとこんなアイディア試してみたいな、というヒントも、それを解決してくれる素材や職人がそこにいる/あるよ、というふうに、自由度を上げて行きたい。toolboxは、その為のプラットフォームにしていきたい。

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何が理想なのか

──リノベーションは最初はストイックでゲリラ的なものだったけれど、いつの間にかだいぶステージが変わって来てると。

:かつてのデザイナーズマンションという言葉と同じで、割と言葉が自走し出したという感じかな。デザイナーズマンションにはデザイナーは住まない(笑)。最近増えまくっている「リノベーション済み物件!」ていうのは、僕らの感覚としては「え!もう済んじゃったの!?」みたいなところがある。賃貸ならともかく、売買だったらそこから楽しみたいのに!と。

──林さん的にはむしろ「(リノベするための)ハコをくれ!」と思っているんですね。

:まあそうですね。あとは、なんとかするから、楽しみは残しておいてよ、と(笑)

──世の中はそういう方向に向かっている?逆に進んでる?

:今は両方の方向が混在している感じですかね。でも、ユーザーの感覚として、スケルトンへの抵抗感はどんどんなくなってるというのはあります。飲食店なんかではデザイナーの杉本貴志さんあたりが80年代に天井を取って配管をむき出しにし始めて、今やそれは普通ですが、家もだいぶスケルトンになってきてる。

──今後、住宅のスケルトンがスタンダードになるということでしょうか?

:スケルトンで買ったり借りたりして、そこにそれぞれが自由にカスタムしていくといったようなイメージにはもっと近づいていくんじゃないですか。お仕着せではつまらないという思いを多くの人が持つようになるし、空間のカスタマイズも、これから色んな仕掛けが出て来て、やりやすくなっていくでしょう。

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──自由度とか面白さとか、自分なりに楽しんで行く為の、方法、手立てがどんどん進化して行くということですね。それが東京のスタンダードになってくれれば理想だな。

:そうですね。増えていくはずですけれど、まだ現在の状況は、携帯で言うところのおしゃれなガラゲーが色々出て来た時代。スマホになる手前。iPhoneはほぼスケルトンの状態で手元に来て、自分好みのアプリを入れていくわけで・・

──なるほど。

:一方、これからアナログで何が残るかって考えると、服と食とリアルスペース、つまり衣食住というわけですが、衣や食は情報や手段をユーザーが主導していくようになってきていますよね。食の情報はプロの料理本からクックパッドへ、衣だとWEARとか、情報のあり方からどんどん変わっています。住だけがまだ受け手の持つ力や自由が小さいように思えます。

──toolboxは家作り業界のクックパッドになる?(笑)

:そうかも?!頑張ります(笑)

(Interviewer: Y.Nag TOKYOWISE)
(Photo: Shinsuke Kamioka)

ご協力: 東京R不動産 ディレクター 林厚見氏
http://www.realtokyoestate.co.jp/

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