Editor’s Eye

2015.08.26

Editor’s Eye
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今、ジャカルタのデザイナーが熱い!
  ~Part2 TOTON(トトン) 美しい国・インドネシアへのオマージュ~

前回のETU(エトゥ)に引き続き、今回ご紹介するのは、インドネシア・ジャカルタをベースに、パリやドバイをはじめ、強い個性を持つ世界各地の現代女性に圧倒的な支持を得ている『TOTON』。“トトン”とカタカナで書くと、どこか可愛らしく、響きも夏の風鈴のように軽やかで、一度耳にしたらたちまち脳にインプットされるようなキャッチーさもある。だが、2013年よりジャカルタ・ファッション・ウィークでコレクションを発表するに至るまで、デザイナーのトトン氏には、果てしなく長い心の旅があった。メルセデス・ベンツ・ファッション・ウィーク東京 2015-2016A/Wにてショーをお披露目した直後の彼にお話を伺ってきた。

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―個人的には、今季、一番心を奪われたショーでした。今回のコレクションは、来日される直前にパリでも発表されたそうですね。反響はいかがでしたか?

ありがとうございます。パリでは4回めのシーズンを終えたところです。向こうにはショールームがあるので、そこでニューヨーク、中近東など、世界各地からやって来るバイヤーの方たちに会います。シーズンを重ねるごとに、手応えは感じています。

―そして今回、日本で初となるコレクション。いかがでしたか?

去年のメルセデス・ベンツ・ファッション・ウィーク東京に参加したインドネシアの友人デザイナーから噂は聞いていましたが、実際に体験してみて、その素晴らしさを実感しています。コレクションを発表するという意味では、東京も、インドネシアも、基本的に同じだと思いますが、こちらではすべてがほぼ時間通りに行われますよね? それが僕にとっては驚きであり、ありがたいと感じたことのひとつです。インドネシアでは15分の遅刻でも、ジャスト・オン・タイム。 “時間に遅れる”ことはごく日常的で、コレクションにおいては、開始時刻が1時間遅れることもあります。良く言えば、リラックスしている国民性ともとれますが、オーガナイズされているかというと、必ずしもそうとは言えませんよね(笑)。スタイリングは自分たちで行いましたが、ヘアメイクに関しては東京のスタッフと相談しながら作り上げていきました。すべてがスムーズに運び、無事終えることができた今、感無量です。

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―M.I.Aのアップテンポなリズムに合わせて、颯爽とランウェイを闊歩するモデルたち。コレクションのムードにぴったりマッチしていて、絶妙な演出でした。トトンさんにとって、インスピレーションの源は何ですか?

すべてのコレクションは“インドネシアへのオマージュ”で、それを国際的に、モダンに表現することを意識しています。「インドネシアに捧げるブランドを作りたい」と思うきっかけになったのは、ニューヨークで過ごした時間が大きかったですね。国内でデザイナー、モデリスト(パタンナー)としてのキャリアを積んだ後、より自分のファッションの世界を拡げるために、パーソンズ美術大学に留学して以来、僕を取り巻く状況はがらりと変わりました。

ジャカルタから飛行機で2時間ほど行ったところにあるマッカサルという島で生まれ育ち、高校を卒業した1年後くらいに、ジャカルタに移り住みましたが、国外で暮らすのは初めて。周りを見渡せば、アメリカ人、フランス人、中国人、日本人など世界中の色んな国の人々が集まっている。これまでに経験したことのない真新しい環境の中、誰かと出会うたびに必ずと言っていいほど、「君はどこの出身なの?」と聞かれました。

「インドネシア」と答えると、「それはどの辺りにある国なの?どんな文化なの?」と人々は興味を持って、僕の話に耳を傾けてくれたんですね。その度に、自分のアイデンティティについて深く考えるようになったと同時に、インドネシアがいかに他国の人たちを魅力するインスピレーションに溢れた美しい国かということに、気づけるようになりました。

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―今回のコレクションのテーマもそこに繋がっていますか?

はい、もちろんです。今季は、インドネシア人の“スピリット・オブ・ライフ”をテーマに、ダヤック族という少数民族にスポットを当てました。今もなお未開のジャングルに住む彼らを取り巻く自然、彼ら特有の信仰、衣装やタトゥなどのモチーフ…それらすべてのさまざまな要素を独自に解釈し、コレクションに取り入れて表現しました。

僕がインドネシアについて愛してやまないのは、違う地方に行くと、まったく異なる文化やアートに触れることができ、いつも新しい美を見つけられることです。同じ国の中に存在しながら、それらは異文化のように新鮮な発見と驚きを与えてくれます。

―グレーを基調にした繊細なカラー・グラデーションが印象的でした。

グレーは普遍的に好きな色のひとつです。黒でもなく、白でもなく、その間にある色は、強くはないけれど、ソフトではない。ニュートラルなこの色には、無数のシェイズが存在しています。主張しすぎず、どんな色にもよく合うので、無意識かもしれませんが、おのずと選んでいることが多いですね。公私にわたるパートナーのHaryo Balitarは色を選ぶのが本当に上手。悩んだ時は、いつも彼に助けてもらっています。 s_IMG_0379

―インドネシア以外にインスパイアされる人やモノやコトはありますか? 

インスピレーションはさまざまなことから受けますが、「今、自分が何を感じているか?」という感情の場合が多いかもしれません。例を挙げると、先シーズンの春夏コレクションのテーマは、『Broken Promises』でした。ある友人にとてもがっかりした自分の気持ちにインスパイアされて、コレクションで表現したんです。

―ダイレクトで、ロマンティックですね。

そう言ってもらえるとありがたいです。今回、インドネシア人の“スピリット・オブ・ライフ”にフォーカスしたのは、「つまるところ、人は何か目に見えるもの以外との繋がりを欲するのではないか?」と感じたからです。

生きていれば、良い時も、わるい時もありますよね?その中で精神の平和を誰もが持ちたいだろうし、できればなるべく穏やかでいたい。インドネシアではムスリム、ヒンズー、クリスチャンなどさまざまな宗教があり、それらとの繋がりを求める人もいれば、ダヤック族のように特有の信仰を持つ民族もいます。宗教や信仰でなくても、見えない何かと繋がることは、その人にとって大切な“スピリット・オブ・ライフ”。これが今、僕が感じていることですね。

―では、今後TOTONのコレクションを見れば、トトンさんの心境が分かるかも?

そうですね(笑)。あと、「何に一番インスパイアされるか?」と聞かれたら、“いつもここにある母のスピリット”かもしれません。母は、僕が生後10ヶ月の時に父が亡くなって以来、女手ひとつで育てあげてくれました。自分以外の誰にも頼らない、強い女性でした。

元を辿れば、ファッションの道に進んだのも、縫製工場で働く母の影響が強くありました。自宅にもミシンがあって、仕事をする彼女のそばで遊んでいた幼少の頃から洋服に興味を持っていましたが、「縫い子の道を目指すのではなく、エンジニアリングを学んで欲しい」と願う母の気持ちを汲み、高校卒業後はその専門の学校に進みました。ところが、僕には向いていなかったんですね。1年ほどで辞めたあと、メディア・ブロードキャスティングの学校に通い、テレビやラジオ番組の作り方を学ぶことにしたんです。

―メディア・ブロードキャスティングですか!?意外なご経歴に驚きました。

2年間学んで卒業したのち、ご縁あって、著名なブランドでデザイナー、モデリスト(パタンナー)として働き始めました。当時の上司には多く助けられましたが、基本はやりながら覚えていく独学スタイル。本格的に力を付けたいと思い、その後、ニューヨークに渡ったのは前述の通りです。

パーソンズで学んだ後、母が病気になり、余儀なく帰国。彼女が亡くなったタイミングで痛感しました。もうこれ以上、時間を無駄にできない。もう待てないな、と。「自分のブランドを持ちたい」という長年の夢を実現するために、今こそ一歩を踏み出す時だと、母の死が背中を押してくれました。

―次なるステップは?

ジャカルタに、自分の“ホーム”となる小さなショップをオープンできたらいいなと思っています。今はアトリエと作業所がありますが、近い未来、人々が訪れて、ブランドを体験できる空間を持てれば理想的。燃えるような野心はあまりないんですよ。“Go With The Flow(流れと共に行く)”というタイプだから(笑)。

「デザインに必要なものは、インスピレーションを受けた感覚だけでなく、物理的な着装物としてもトレンドの先を読み解くことが必要」―そう感じてニューヨークに渡り、実力を培ってきたトトンさんだからこそ、自分が素直に感じる気持ちをインスピレーション源としたクリエイションが成り立つのだろう。彼の持つ独特の感性によって、インドネシアという国の多面的な魅力が落とし込まれたコレクションからは、ミュシャの描く華麗な女性たちの姿が想起された。観る者、着る者にもインスピレーションを与えてくれるTOTONの今後に期待したい。

(Text: 岸由利子
(Photo: 佐藤博信(デザイナーのポートレイト写真))


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