完全ファン目線の安室奈美恵論

2018.05.01

完全ファン目線の安室奈美恵論

ファイナルツアー“my初日”は涙味

困ったことになった。本連載のメインテーマは、とかくビジュアルや生き方ばかりが注目されがちな安室奈美恵の、アーティストとしての真の偉大さをファン目線で語ることにある。となると、重要なトピックは二つ。第3回で述べた“特異なスタイルのライブをコンスタントに続けてきたこと”、そしてそのライブの中身である“歌と踊りの特異性”だ。この2点目について、せっかくなら改めて体感した直後の熱いうちにと思い、ファイナルツアー『Finally』に参戦してから書こうというのが筆者の目論見だった。その「熱いうち」が、2月から敢行されている本ツアーの“my初日”をようやく迎えた今、なのだが――。

以下、ネタバレ注意!

ファイナルだからといって特別なことはしない、というようなことを本人が言っていたこと、そして筆者自身、幸運なことに6月公演のチケットも確保できていることから、湿っぽくなるのはその“my最終日”だけにして、今回はいつも通り楽しむつもりで会場に向かった。ところが、である。アルバム制作にあたってはライブを念頭に置いて選曲する、と常々公言している彼女の場合、アルバムタイトルが冠されたライブのオープニングは、そのアルバムの中で2番目くらいにダンサブルで、かつ印象的なイントロを擁する楽曲であることが多い。本ツアーと同タイトルのアルバム『Finally』はベスト盤的内容だが、その中には本ツアーを念頭に置いて選んだであろう新曲が6曲あり、中でもイントロが印象的な『Showtime』による幕開けを、筆者的には予想するともなく予想していた。

だが実際には、五輪開会式の聖火点灯を思わせる壮大な演出と共に1曲目として披露されたのは、紅白歌合戦でも歌われた過去のシングル『HERO』。しかも衣装が踊らない仕様のスカートで、この時点から「あれ、全然いつも通りじゃない?」という予感はしていた。そして困ったことに、こちらの気分もまたいつも通りではなかった。これまでオリンピックを彩った応援歌として聴いていた曲が、ファイナルという文脈の中では全くの別物として聞こえ、全ての「I」が「私(=安室奈美恵)」、全ての「YOU」が「ファンのみんな(=私)」に脳内で変換されるという現象が起こったのだ。「私があなたのヒーローになるよ」「あなたも私のヒーローだよ」(歌詞意訳)が、「安室ちゃんは私のヒーロー」「私も安室ちゃんのヒーローだったのか」と変換されたら嗚呼、もう涙が止まらない。

1曲目で予感した通り、ファンからのリクエストを元に構成されたセットリストは決していつも通りではなく、ダンサブルな楽曲よりもバラードやミディアムナンバーが多め。そうした曲の歌詞には「私」や「あなた」が頻繁に登場するもので、故に筆者の中で変換現象が止むことはなく、いちいち涙が込み上げた。また、これまでミディアムナンバーは往々にしてアンコールで披露されていたため、それらが出てくる度に過去に体験したアンコールが体内に呼び起こされ、筆者の中では何度も何度もライブが“終わった”。いい大人が人前でこんなに泣くものかね、と我ながら呆れるくらいビービーわんわん、声を上げて泣いた。そうつまり、予想外に悲しい気持ちになってしまったためとても冷静に歌と踊りの特異性を分析している場合ではなく、「困ったことになった」というわけだ。

“私”と“あなた”の特別なライブ

そんなわけで、歌と踊りの特異性については次回、頭を冷やしてから改めて語ることにして、今回はこの超私的レポートを最後まで続けさせていただくこととする。全くもって「論」とは呼べない感情的な回になるが、こんな重いファンはきっと自分だけで、ほかのみんなは笑顔で終わりたいという本人の意向を尊重して楽しんでいるのだろうと思って終演後に見渡したらやはり泣いている同志が少なくなかったので、「完全ファン目線の」という点では本連載の主旨に合っているものと考える。

2番目くらいにダンサブルでイントロが印象的な曲がオープニングなら、最もダンサブルでトランス要素のある曲が本編のエンディング。『Do It For Love』で終わった今回は、その意味では“いつも通り”だったのだが、これもまた例の変換現象と、その現象があながちこちらの思い込みによるものでもないと思わせる心憎い演出のせいで泣けて泣けて仕方がなく、その後のアンコールに至っては号泣の連続だった。ためしに『How do you feel now?』の歌詞を変換現象と共に読んでみていただけたら、この曲で終わられた時の気持ちがお分かりいただけるのではないかと思う。今回はさらにそのあと、貴重すぎるMCまであり、どうしたって“ファイナル”を実感せざるを得ないまさに特別なライブであった。

あれ以来、アルバム『Finally』を聴くことすらできなくなっている自分に、果たして「頭を冷やして」次回に臨むことなどできるのだろうか。甚だ不安だが、なんとしてでも成し遂げようという決意に燃えてもいる――特別であったとはいえ、特異性はもちろん健在だったファイナルツアーと、それを実現した偉大なるアーティストに敬意を表するために。

(Text:町田麻子)
(Illustration:ハシヅメユウヤ)

■NAMIE AMURO×KOSÉ ALL TIME BEST Project進行中!
3月からスタートした「安室奈美恵さんの軌跡を振り返り、感謝の気持ちを伝える」プロジェクトの第2弾として、4月20日より新CM「みんな、あなたになりたかった。」篇が公開中。9月16日の引退日まで様々なコンテンツを計画中という同プロジェクトにも注目を!
www.kose-amuronamie.jp/

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町田麻子
フリーライター。早大一文卒、東京藝大在学。主に演劇、ミュージカル媒体でインタビュー記事や公演レポートを執筆中。
www.rodsputs.com

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