地価値上がりランキングTOP5入り 中央線、最古の駅「武蔵境」 哀愁の『へそ踊り』 Tales of HESO,MUSASHISAKAI

2017.06.26

Vol.18 中央線快速物語

現在の「すきっぷ通り」。

「へそ踊り」の終焉


一番多いときで150〜200人くらいの規模で続いていた「へそ踊り」にも陰りが見え始める。「へそ踊り」は、身体に白粉を塗ったり絵を描いたりと準備が大変。そして踊り終わったら、銭湯を貸し切って絵を洗い流させてもらわないといけないくらい、終わったら終わったで片付けも大変なのだ。始めた当初の商店街は、個人商店ばかりで、みんな元気だったし、景気も良かったからお店をほっぽっても問題はなかった。でもだんだんと月日が経つにつれ、変わっていってしまったと下田さんは言う。

「まず、手伝ってくれる人がいなくなっちゃったんですよ。あとは個人商店の人たちがお店を辞めてテナントに貸しちゃった 。テナントに貸していると協賛も集まらない。そういのがだんだん重なってきて、最終的には費用の工面が困難になってしまったんです。最初に揃えた傘や衣装だとかも、傷んでしまうので作り直さないといけない。でもそのお金も足りない。色々な面でお金も人も足らなくなってしまったのです。これはもう無理だろうと。変な話、お金はなんとかなっても、続けていくにはスタッフがいなかったら難しい。周りに負担をかけすぎると、商店街の役員さえやってくれなくなってしまうという問題まで出てきてしまった。結果、これからはできるだけ手のかからないものに変更しようということになったのです。」

結局、何をするにもお金と人は大事なのだ。武蔵境の「へそ踊り」は、切りのいいところで辞めようということになり、15回でその幕を閉じた。
その後も「サンバ」、「花笠踊り」とジャンルを変えてイベントを開催したが、結局はどちらも手がかかるので辞めてしまったという。生活環境が変わり、町の住人たちの参加意識も薄くなったので、みんなで行う踊り的なイベントを続けていくには難しい時代になってしまったのだ。景気が良かったのもあるが、北海道拓殖銀行のような企業が協賛してくれていたことも大きかった。今はそんな企業はめったにない。

現在は、イルミネーションやパフォーマーズフェスティバルなど、設営さえしてしまえばあとは好きにやってくれるような極力手のかからないイベントにシフトしているという。それはどこも同じで、「すきっぷ通り」だけに限らない。時代とともに、世代交代があり、個人商店が軒並みチェーン店に変わってしまい、協賛金が集まらず、古くから行われていた祭りやイベントが消えていく。隣近所の人たちと仲良くするという意識も薄れていくなか、今後、商店街はあと何年かすると、どんどん消えていくだろうと下田さんは言う。

「あと5年10年もすれば世代交代がまた始まり、人数もがくんと減ることになる。僕たちの代はまだいいけど、僕らの後の若い人たちが商店街を継続していくには難しい時代になる。商店街の運用は委託業務にして、事務管理だけするようになるかもしれない。ただ現状は大変だけど、自分たちがやれるうちは頑張って商店街の活性化に努めていきたいと思う。」

寂しい話だが、新しいお店も続々と増えているし、決して何もなくなってしまうわけではない。それが時代の変化というものなのだろうか。

暗い話ばかりではない武蔵境


現在の武蔵境駅。 2009年、武蔵境から東小金井、武蔵小金井と続く高架がようやく完了した。東小金井などにあった“開かずの踏切”はようやく消滅したのだ! 2013年には、これに伴い生まれた高架下空間を活用した商業施設「nonowa(ののわ)武蔵境」が開業、駅前のロータリーも昨年完成するなど、武蔵境はいま発展の経路を辿っている。昨年には東京都で地価が値上がりしたTOP5にランクインするほど、注目されている街でもある。そのうち、住みたい街ランキングで吉祥寺を抜く日がくるかもしれない。そしていつかまた、「へそ踊り」を見られる日がくることを願うばかりである。

(Text&Photo:Aori Ota)

*1 「すきっぷ通り」という名は、約1800通もの一般公募の中から決まったもので、“すきっぷ”は、そのまま“スキップしたくなるような商店街”という意味と、“好き”な通り、駅が近いということから“切符”の、3つの意味が込められているのだそう。よく“スキップ”とカタカナで書かれてしまうことが多いそうだが、平仮名なので、皆さん、お間違えのないように気をつけていただきたい。

下田園
住所:東京都武蔵野市境1-2-4
営業時間:9:30〜19:30
定休日:元旦、不定休
http://www.shimodaen.co.jp/

TOKYOWISE SOCIAL TOKYOWISE SOCIAL