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2014.11.29

vol.3 The Movement-TOKYO 2014-2015
TW_tokyoR_topimage 東京R不動産の林厚見氏が密かに思うこと

買うか借りるかの水掛け論

不動産の仕事をしていると「借りるのと買うのどっちがいいの?」とか、「今どこが穴場なの?」とか、そういうことをよく聞かれる。気持ちは分かるんだけれど、これらは実際のところ、正解のない質問だ。こういう問いに対して、さもプロっぽく即答したりウンチクするような人の話は、ほどほどに聞き流せばいいと思う。 とはいえ皆さん気になって仕方ないみたいなので、「買いたいんだけど、どう思う?」という友人がいたら、僕は「いいじゃん、買いなよ」と言う。「買いたい」ならそれでいい。「迷ってるんですよね〜」と言われたら「買えば?」と言う。買う前提に立ってみた方が、とりあえず色々学び始めるから。「どっちがいい?」という人にはオウムのように同じ質問を返して、思いを掘っていく。
ぶっちゃけ、損得で言うならばどっちでもいいのである。というか、相場というのはそうなるようにできている。細かく言えば色々あるけれど、ざっくり言えば、損得が微妙になるように家賃や値段が決まって行くのだ。今は確かに金利も低いし、割安物件を買えればおトク感はあるが、そのうち大地震が起こったりして「うわぁ!買わなければよかった」なんて話もそれなりに出るかもしれない。考えたらキリないのだ。
場所やモノや値段の判断を間違えない人は多少リスクをとって、買ったらいいと思う。不動産は宝くじやパチンコと違って、誰かがはじめから2割も3割も取ってしまうわけではないわけで、投資的な勝ち負けで言えば悪くない。さらに攻めたい人は大家になるのもいい。買って、好きにイジって一部を人に貸したり。不動産はうまくやれば、スキルアップとかに一生懸命になるよりも経済的なインパクトは大きくなるかもしれない。 sFullSizeRender12

穴場神話論の崩壊

「穴場」の話はどうか。これも正解なんてない。そもそも明らかな穴場エリアなんて東京ではもうないのだ。むしろ本質は自分のキャラやニーズに隠れている。駅から遠くても気にならない人にとっては、駅から遠いところが”割安”になるし、高層階が落ち着かない人なら低いところが割安になる。答えは貴方の中にある、ということだ。
さてここまでは「損得」の話である。要するに勝ち負けのゲームのような話だ。だが、不動産というのは損得だけで語るべきではない。「あのへんは、高い割に将来下がるからだめだよ」とか「駅から遠いと売るときに売りにくいよ」とか、そういうことばかり言う人と話しているとどうにも気持ちが萎えてくる。
「損得」と「幸せ」は別だ。目的を「いつか、の安心」に置くのか「楽しく気持ちいい日々」に置くのか。車選びで言えば、中古になっても値段が下がらず売れるかどうかで決めるのは、こだわりのない人の考え方であり、車を楽しむのを放棄した考え方である。マンションの価格というのは皆の投票の平均点であって、人気のマンションとは誰にも一様にモテる男のようなものである。損得の一般論というのは、そういうところに行ってしまう。幸せとはもっと、主観なのだ。
その意味で「好きな街に住む」ということは幸せなことだと思う。便利かどうかばかりでなく、好きな街の空気みたいなものを気にしてみる。人と同じで、スペックでは表せない相性とか、深さとか、そういうものを。 sFullSizeRender10

住むことの脱一般論

僕はやっぱり時間が積み重なった街が、年経るごとに好きになっている。豊洲とか台場とかのように、必死の早業で機能配置された街は、誰かが計画したシナリオにのっかることはできても、創造的に自分の生活を編集することはしにくい街のように思える。それは、都会的なようで都会的ではない街だと思えてしまう。湾岸のタワーを買うというのは、”損得”の話で言えばきっと悪くないんだろう。その立地の便利さと、日本人の気質を考えれば、きっと”損しない”場所なんだろうと思うし、満足度も悪くないのだろう。でもやっぱりあのあたりは、基本的に「利便」や「損得」から語られる場所に思えるのだ。もちろん一概にネガティブということではない。そこにあえて新しい発見を求めるとか、自分なりの未来の生活像を感じるとか言われれば、それはむしろ上級者だと思うし、好きと損得のバランスとか風情と利便のバランスというのは、もちろん人それぞれだ。
それでも、一般論と合理性ばかりで不動産を選ぶべきじゃない。「絶対、買い得だよね」「すごい便利だよ」と自慢する人よりも「いい街だよ。私は大好き」という人は素敵だ。人から間違ったって思われても気にすることはない。僕は自分らしく楽しむことを優先して生きる人は結局人生トクすると思うし、損得より好き嫌いが先にくる方が老けないと信じている。自由なマインドを持ち、興味のアンテナ張り、街を楽しみ、本音で語れる仲間を持つ人ならば、主観と感性で選んで間違うことは決してない。そこには必ず価値が宿る。

さて、貴方はどこに住みたいですか?
s2FullSizeRender13 (Text : Atsumi Hayashi / 東京R不動産 ディレクター)
(Photo : TOKYOWISE編集部)
東京R不動産
http://www.realtokyoestate.co.jp/

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