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2016.01.15

vol.8 TOKYO TASTY
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祭り囃子が聞こえるよ。
元祖下町・神田をめぐる“飲んべえナイト”の幕開けだ



神田。威勢のいい町人や職人たちの声が今にも聞こえてきそうなこの町には、神田明神を筆頭に、たぬきの神さま“福寿神”を祀る柳森神社など、霊験あらたかな寺社仏閣が点在している。商家の風情たっぷりの和風建築や、みごとな近代ロマネスク様式の丸石ビルディングなど、戦災を免れた貴重な建築物も残されていて、かつて、ここで暮らした人々の歴史をそこかしこに感じることができる。

高層ビルが林立する日中のオフィス街周辺には、例に漏れず、いかにも都心的な慌ただしさがあるが、神田須田町・淡路町の一角をはじめ、夜の神田には、「よっ、おかえり!」と街そのものが迎えてくれるような温かさや懐かしさ、そして、どこか祭の夜のような胸躍るにぎわいに溢れている。

今回は、生まれも育ちも日本橋、ちゃきちゃきの江戸っ子Y氏(♀)をナビゲーターに迎えて、TOKYOWISE編集長Y氏(♂)と筆者Y(♀)のワイワイトリオで、神田の名店を飲み歩きしてみた。



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食欲、酒欲、かきたてます。ただし、愛想はないけれど!


一軒目は、中国東北地方料理の「味坊」。「いつも満員で、予約しないと入れないから、入れとくね!」と事前に日本橋Y氏(♀)。いの一番に到着した筆者が通されたのは、1階のテーブル席。といっても、厨房と隣り合わせの、どちらかというと狭い感じの相席で、つかず離れずのいとこたちと、おばあちゃん主宰の食卓を囲む時みたいに、ちょっとくすぐったい心地良さがある。ふたりのY氏を待つあいだ、店のお姉さんにオススメを尋ねてみた。勧めてくれたのがこちらの2品。青唐辛子、キュウリ、香菜のサラダと、ラム肉のクミン風炒めだ。

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何でも中国東北地方の中華は、羊肉とスパイスが特徴なのだそうで、焼き餃子や水餃子にも羊肉、ジャガイモの炒め料理にもパクチーなどのスパイスがたっぷり使われている。「事前に下調べしておくべきだった…」と、羊肉の苦手な筆者は一瞬青ざめたが、勇気を出して食べてみると、あら不思議。クミンと赤唐辛子のせいか、(それとも、3杯一気にあおったハイボールのせいなのか?)、羊特有の臭みがなく、美味いと、心底感じたのだ。

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肉は柔らかく、するっと喉を通るから、パクパクいける。ざくっと大胆に切った玉ねぎも香ばしく、こってり見えて、味はさっぱり。サラダを頬張ると、青唐辛子とパクチーがさらに食欲をそそり、また肉に箸を伸ばす、の繰り返し。これは筆者にとって革命に近いことだった。「え?こんなに素敵な夜だっていうのに、羊肉を食らうというのですか?」と引けた腰で、眉をひそめることも、今後、なくなってしまうのだろう。だって、ここに来れば、苦手意識や既成概念も全部、フッ飛んで、美味しい料理を味わえるのだから。

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約束の時間から40分ほど経ったところで、待ちに待ったふたりのY氏と合流。「ここは自然派ワインが美味しいんだよ!」-着席したばかりなのに、また、ふらふらと出入り口に向かっていく日本橋Y氏。どうやら、壁を隔てたとなりの建物の1階も、味坊の一部だったのだ。フリッジにずらっと並ぶワインボトルの中から、自分で好きなものを選び、テーブルに持っていき、勝手に飲む。それがこの店のスタイル。自然派ワインは、基本、オール2,500円。別途、ボトルに値段が書かれているものは、その値段だ。

ふむふむ、納得。手を打っていたら、肝心の日本橋Y氏がいない。溢れかえる客をもてなすのに忙しすぎて、愛想笑いのひとつもくれない中国人スタッフのお手伝いに行ってしまったのかな。思いきや、テーブルに戻ると、そそくさと赤ワインをグラスに手酌で注ぎまくり、ご満悦な彼女の姿が。

「そもそも、中華料理店に、なぜワイン?」と首を傾げた方も多いのではないだろうか。聞くところによると、ワインバー「祥瑞(しょんずい)」、「グレープ・ガンボ」のオーナー、ヴァン・ナチュール歴15年以上の勝山晋作氏が、この店の常連だったことが関係しているらしい。

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ワインボトルは、あっという間にきれいな空ビンに。編集長Y氏はビール、筆者はハイボールに徹し、一軒目にして、飲んべえ三人衆が立派に完成。連日、満席というのも、納得できた。この店の一番の魅力はなんといっても、食欲と酒がスイスイ進む心地良さなのだ。ニラと卵がたっぷり、ボリューム満点のおやきでシメて、次なる目的地へ。

味坊
東京都千代田区鍛冶町2丁目11-20 共同ビル1・2F
03-5872-2126
営業日:月~土
ランチ11:00~14:30
ディナー 17:00~23:00



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世にも奇妙な、神田・極上のおもてなし!?


古民家風の一軒家を改装した「玄気」は、カウンター席、テーブル席、個室がそろう全58席の野菜居酒屋。一行が通されたのは、1階の小上がり席だ。ぐるりと見渡せば、そこかしこに、達筆な手描きメニューの貼り紙、亀の置物、猫やクマのぬいぐるみ。さらに、鯉の額縁、神田祭のちょうちん、茶釜に、柄杓に、巨大な酒だる…「運ぶの、たいへんじゃなかったですか?」と尋ねたくなるような大小さまざまな物体が雑然と飾られているが、赤いライトと相まって、摩訶不思議に落ち着くムード。

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なぜか鳥肌が立ってしまう言葉。でも、あえて言わせていただくと、この日は“華金”。ジャンジャンバリバリ・タイム(こちらも鳥肌)にもかかわらず、日本橋Y氏の計らいで、2階のシークレットスペースにも案内していただいた。大仏の仮面、鎧、ポップな壁画など、予想外の物体が、次々と目の前に現れたが、目玉は、どでかい亀2匹を飼育する温室。入るなり、こたつの中に顔を突っ込んだような暑さが襲ってきたが、のそのそと動く亀たちの可愛いこと。計8匹の亀が、この店にはいるという。希望者はお目にかかれるので、ぜひ、スタッフの方に尋ねてみて欲しい。

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席に戻ると、ふたりのY氏が、焼きマッシュルームを肴に、生レモンサワーでよろしく一杯やっていた。筆者も交じって、ひと口飲んでみると、五臓六腑にジュワーッと、レモンが沁みて、生き返った気分。なにせ、ジョッキの半分ほどが生レモン、果汁たっぷりだ。焼き野菜は、ほんのりと鼻をつく素材の香りが上品。ホワイトアスパラ、ミニトマトのレモンしょう油、あわび茸とインカルージュのトマトソースなど、繊細な組み合わせのメニューが豊富にそろっている。話せば、とても気さくでフレンドリーな方だったが、パッと見、コワモテ風の店主と料理のコントラストが、個人的にはたまらなく素敵だった。

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至れり尽くせり。こちらが、お見送りまでしてくださった同店・店主。お辞儀して、ふと見上げると、何かが足りない。聞くと、帽子のごとく、カツラをかぶっているそうで、帰るお客さんを見送る時にだけ、取りはずすのだそうだ。味の素晴らしさ、ユニークな空間演出に加えて、店主自ら、体を張ったパフォーマンスに、いたく感動した。

玄気
東京都千代田区内神田1丁目10-5
03-3291-1213
18:00~23:00(天然酵母パンは11:30~) 日曜営業
不定休

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