夏の光がいよいよ強まる8月。
今月の新作は、変わりゆく季節や街の気配、人と人との距離感を丁寧にすくい取りながら、それぞれの選択や葛藤を描き出す。そして、日々のなかに潜む感情や記憶を静かに照らすような、余韻の残る5本を紹介する。
『美しい夏』
劇場公開日：2025年8月1日
1938年、田舎からトリノへ出て洋裁店で働く16歳のジーニアは、美しく自由奔放な女性アメーリアと出会う。画家のモデルとして生きる彼女に導かれ、芸術家たちが集う世界へ足を踏み入れたジーニアは、恋や憧れを通して大人へと成長していく。
2023年製作／110分／R15+／イタリア
原題または英題：La bella estate
配給：ミモザフィルムズ
劇場公開日：2025年8月1日
公式サイト : https://mimosafilms.com/labellaestate/
『キムズビデオ』
劇場公開日：2025年8月8日
1987年、韓国系移民のキム・ヨンマンがニューヨークに開いた小さなレンタルビデオ店には、映画ファン憧れの膨大なヴィンテージコレクションが集まっていた。しかし時代の流れとともに店は閉店し、その5万5000本の映像は忘れ去られてしまう。数年後、かつての会員が記録と記憶を頼りに、イタリアの小さな村でほこりにまみれたコレクションの存在を知り、映画を救おうと前代未聞の奪還計画に乗り出す——映像史に刻まれた記憶を、偶然にも「盗み出す」勇気を描くドキュメンタリー。
2023年製作／87分／G／アメリカ
原題または英題：Kim's Video
配給：ラビットハウス、ミュート
劇場公開日：2025年8月8日
公式サイト : https://kims-video.com/
『蔵のある街』
劇場公開日：2025年8月22日
岡山県倉敷市の美観地区を舞台に、花火を打ち上げようと奮闘する高校生たちの姿を描く青春ドラマ。蒼・祈一・紅子の3人は幼なじみ。ある日、紅子の兄で自閉スペクトラム症の“きょんくん”が神社の大木に登って叫ぶ場面に遭遇し、蒼はとっさに「花火を打ち上げる」と約束してその場を収める。しかし紅子はその軽はずみな発言に涙を流し、「兄はその約束を忘れない」と訴える。言葉の重みを痛感した蒼たちは、現実に花火を打ち上げるために動き出す。かつてコロナ禍の日本各地で行われた“サプライズ花火”の実話をもとに、若者たちのまっすぐな思いが街全体を巻き込み、やがて希望へと変わっていく様子を丁寧に描く。
2025年製作／103分／G／日本
配給：マジックアワー
劇場公開日：2025年8月22日
公式サイト : https://kuranoarumachi.com/
『マルティネス』
劇場公開日：2025年8月22日
60歳のチリ人男性マルティネスは、メキシコの都市で一人静かな日々を送る。会計事務所での仕事と水泳のルーティンは規則正しく、他者と距離を置く偏屈な生活が続いていた。その日常が、隣人の女性アマリアが孤独死したことをきっかけに変わり始める。彼女の私物の中から自分宛の贈り物を見つけたマルティネスは、なぜアマリアがそれを遺したのかに興味を覚え、日記や手紙、写真を通じて彼女への思いを募らせていく。やがて心の奥底に眠る人生への好奇心が再び呼び覚まされ、固く閉ざしていた世界が少しずつ開かれてゆく——孤独と老いを、ユーモアと共感で綴るラブストーリー。監督はロレーナ・パディージャ、主演はフランシスコ・レジェス。
2023年製作／96分／G／メキシコ
原題または英題：Martinez
配給：カルチュアルライフ
劇場公開日：2025年8月22日
公式サイト : https://culturallife.co.jp/martinez/
『海辺へ行く道』
劇場公開日：2025年8月29日
瀬戸内海に面した小さな海辺の町を舞台に、美術部に所属する14歳の奏介と仲間たちが、創作と発見に満ちた夏休みを過ごす青春ドラマ。アーティスト支援を掲げて移住してきた風変わりな大人たちと出会い、絵画や演劇などさまざまな創作活動に参加する日々が続く。その中で奏介たちは、地元新聞部の取材や演劇部の依頼など、地域の人々との交流を深め、町の“秘密めいた依頼”にも挑戦。ユーモアと想像力に彩られたエピソードを通じて、子どもたちが自分なりの幸福と成長を見いだしていく。ベルリン国際映画祭ジェネレーションKプラス部門への出品、スペシャル・メンション受賞という国際的評価も獲得した作品。監督は横浜聡子、奏介役は原田琥之佑、共演には麻生久美子、高良健吾、宮藤官九郎ら豪華キャストが並ぶ。
2025年製作／140分／G／日本
配給：東京テアトル、ヨアケ
劇場公開日：2025年8月29日
公式サイト : https://umibe-movie.jp/
外の暑さから逃れて座る暗がりの席は、心を整えるのにちょうどいい場所だ。
作品と向き合う中で、新たな視点に気づいたり、ふと自分自身を見つめ直したりすることもあるかもしれない。この夏、映画がくれる時間を、ぜひ劇場で味わってみてほしい。
