「義足でオリンピック選手に勝ったなら」 為末大さんに聞く、パラリンピックの未来と課題  The Future of  Paralympic Games

2016.08.31

vol.12 TOKYO HEAT WAVE
「義足でオリンピック選手に勝ったなら」 為末大さんに聞く、パラリンピックの未来と課題  The Future of  Paralympic Games

ここ数年、元トップアスリートの為末大さんの活動がずっと気になっていた。現役引退後のスポーツ選手が大学のコーチや監督に就くとか、タレントや政治家に転身したという話はよく聞くが、為末さんのように裏方に徹し、パラリンピックの方面に注力している人は稀有だからだ。いよいよ開幕のリオ・パラリンピック、陸上界の異端児の目にはどう映っているのだろうか。これまでとこれからの活動も含めて、お話をじっくり伺ってきた。

◆メダル獲得より、もっと大事なこと


──なぜ、パラリンピックに興味を持ったのですか?

現役時代、偉そうな人が大嫌いだったんです(笑)。なぜ嫌いだったかというと、人間がフラットじゃないから。能力や地位の優劣はあっても、人間自体に優劣はなく、すべてフラットであるべきーこれが価値観として強くありました。可哀想な状況はあっても可哀想な人はいないし、逆に言うと、健常者だって、障がい者だって、いい人もいれば嫌な人もいて、この世界には色んな人間がいるわけです。

パラリンピックの選手が教えてくれた大好きな話があります。全盲の選手と車いすの選手が2人で出かける。すると、車いすの選手が方向を指示して、全盲の選手が車いすを押す-とてもシンプルですが、社会もそうやって助け合っていくべきじゃないか、といつも思います。たまたま出来ないなら、出来る人が助ければいい。障がいを持っている人は、助けてもらうことが少し多いだけで、僕たちが彼らに助けてもらうことだってたくさんあります。「障がい者だから」という説明があまりない社会になればいいなと。

──リオ・パラリンピックの日本代表選手に競技用義足を提供されるそうですね。

「Xiborg Genesis(サイボーグ ジェネシス)」といって、義足エンジニアの遠藤謙らと共に開発したトップアスリート向け競技用義足を佐藤圭太選手に提供します。僕の担当は、「その義足で、効率良く走る走り方って何?」という指導現場の部分。リオのパラリンピックに向けて、もう少し修正していく予定です。

──今回のパラリンピック、どうご覧になられていますか?

開催中は、何より観客に夢と元気を与えることが一番大切だと思います。でも、僕自身は、リオが終わった後の2017年、東京五輪・パラリンピックが終わった先の2021年を見ている感覚です。

大会運営の領域に一切関わっていないので、権限としてできることはないことが前提ですが、長年スポーツをやってきた人間としての立場から「この先どんな社会があった方がいいか?」と考えた時、2020年以降に日本が抱える課題も議論していって、その解決が含まれているような形のオリンピック、パラリンピックとの向き合い方になるべきじゃないかなと思っています。それが始まっていく年だなと。

──具体的には?

大きな方向性としては、スポーツが社会問題の解決に貢献できるようなモデルがいいのではないかと思います。スポーツ界だけに焦点を当てるなら、五輪成功、メダル獲得がゴールかもしれませんが、真面目な正しい路線でやっていくと、少子高齢化をはじめ、医療費の財政負担など、日本が抱えるさまざまな問題が何にも解決されないまま、2020年が終わることも十分あり得ます。だからこそ、もう少しマクロな視点で、課題解決に対して何らかのアプローチができるような仕組みにすべきだと思います。

──その一端を担うご活動をすでになさっていますよね?

「Xiborg(サイボーグ)」(前出の義足を開発している会社)も狙いとしては、高齢化社会です。人口の3分の1が高齢者って、かなりの割合です。そのまた3分の1の人は何らかの障害を抱えているはずなんですね。ということは、9分の1の人が障がい者、または不具合のある人ということになる。歩行など、体を動かすことに関して痛みのある人を含むと、もっと比率は増えるでしょう。

その人たちをサポートできるベースとなる技術が、パラリンピックのシーンからきっと生まれてくるだろうーそんな想いで活動しています。リオのパラリンピックにおいては、やっぱりスター選手を作りたいですね。義足は、世界一の選手にも履いて欲しいので、国内の選手を応援・サポートしていく一方で、国際的な選手にも今後アプローチしていく予定です。

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