2025年6月、東京の映画館にはジャンルもテーマもバラバラな新作が揃った。ミステリーから社会派ドキュメンタリー、アニメまで。梅雨空を抜けて映画館へ向かう理由は、十分すぎるほどある。今回はその中から、特に気になる5作品をピックアップして紹介する。
『ルノワール』
劇場公開日:2025年6月20日
『PLAN 75』の早川千絵監督が、少女の目を通して1980年代後半の日本社会を見つめた長編第2作。
舞台はバブル期の郊外。11歳の少女フキは、ときに大人を驚かせるほどの鋭い感受性と豊かな想像力で、自由気ままな日々を送っている。けれど、ふと覗き見える大人の世界は複雑で、滑稽で、どこか刺激的だった。やがて、病と向き合う父、仕事に追われる母の姿を通じて、フキの現実も静かに揺らいでいく。
父・圭司にリリー・フランキー、母・詩子に石田ひかり。そのほか中島歩、河合優実、坂東龍汰らが脇を固める。第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。
2025年製作/G/日本・フランス・シンガポール・フィリピン合作 配給:ハピネットファントム・スタジオ 劇場公開日:2025年6月20日 公式サイト:https://happinet-phantom.com/renoir/
『舟に乗って逝く』
劇場公開日:2025年6月13日
中国・江南の水郷地帯を舞台に、余命宣告を受けた母と、そのもとに戻ってきた娘と息子のすれ違いや再会を描いた家族ドラマ。長編初監督・脚本を手がけたのは、新鋭チェン・シャオユー。自身の故郷でもある江南・徳清の風景を背景に、家族の静かな葛藤とつながりを丁寧に描いている。
物語の舞台となるのは、多くの運河が張り巡らされ、かつて舟が人々の暮らしを支えていた町・徳清。かつて舟に揺られこの地に嫁いだ母が、重い病に倒れる。知らせを受けて戻ってきたのは、上海でアメリカ人の夫と暮らす長女と、旅のガイドをしながら定職にもつかず自由に生きる弟。治療方針を巡り、価値観の違うふたりはたびたび衝突するが、母の過去や家族の記憶に触れるうちに、少しずつそれぞれの思いが浮かび上がっていく。
長女役には『人生って、素晴らしい Viva La Vida』やドラマ『開端 RESET』で注目を集めたリウ・ダン。2024年・第37回金鶏奨で最優秀助演女優賞を受賞した演技にも注目だ。
中華映画特集上映「電影祭」2024および現代中国映画祭2024では『船に乗って逝く』の邦題で紹介された、静かだが心に残る一作。
2023年製作/99分/G/中国
原題または英題:乗船而去 Gone with the Boat
配給:ムヴィオラ、面白映画
劇場公開日:2025年6月13日
公式サイト:https://fune.moviola.jp
『それでも私は Though I’m His Daughter』
劇場公開日:2025年6月14日
オウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)の娘として生まれた松本麗華が、加害者家族として社会の厳しい視線にさらされながらも生き続ける姿を記録したドキュメンタリー。
1995年3月、地下鉄サリン事件が発生。日本を震撼させたこの事件の首謀者である麻原が逮捕されたとき、麗華は12歳だった。それ以来、どこにいても「お前はどう償うのか?」という問いと、父の名や事件の記憶が付きまとってきた。
「虫も殺すな」と教えていたはずの信者たちが引き起こした凶行に衝撃を受け、さらに裁判の途中から父の言動が不安定になったことで、麗華は父が本当に犯行を指示したのかを受け入れきれずにいた。父に適切な治療を施し、事実を語ってほしいという願いもむなしく、死刑はある日突然執行される。社会が父の死を望んだと感じた彼女は、深い悲しみと絶望の中でなお、生きることを選ぶ。
『望むのは死刑ですか オウム“大執行”と私』などを通して、オウム事件と向き合ってきた長塚洋監督が、6年間にわたる取材を経て完成させた本作。加害者家族としての葛藤と、その内側にある個人の声に静かに迫る。
2025年製作/119分/日本
配給:Yo-Pro
劇場公開日:2025年6月14日
公式サイト:https://www.iamhisdaughter.net/
『カーテンコールの灯』
劇場公開日:2025年6月27日
『セイント・フランシス』の脚本・主演を務めたケリー・オサリバンと、同作の監督アレックス・トンプソンが再びタッグを組み、今作では共同監督として手腕を発揮。壊れかけた家族の関係が、思いがけない形で再生していく様子を、『ロミオとジュリエット』の物語に重ねて描いたヒューマンドラマ。
舞台はアメリカの郊外。建設作業員のダンは、家族に起きたある悲劇をきっかけに、妻や娘との関係がぎこちなくなってしまっていた。そんなある日、街で偶然声をかけられ、地元のアマチュア劇団が上演する『ロミオとジュリエット』に参加することに。演技経験もなく最初は戸惑うダンだったが、個性豊かな劇団員たちとの交流を通して、少しずつ自分の居場所を見つけていく。
ところが、突然のキャスト変更でロミオ役を任されることになり、過去の傷と正面から向き合わざるを得なくなる。迎えた本番当日、劇場には家族や仲間たちが見守るなか、それぞれの想いが交差する舞台の幕が上がる──。
主人公ダンを演じるのは、シカゴを拠点に舞台・映画で活躍してきたキース・カプフェラー。劇中で妻役と娘役を務めるのは、実生活でも彼の妻タラ・マレンと娘キャサリン・マレン・カプフェラー。家族だからこそ描けるリアルな空気感にも注目だ。さらに『逆転のトライアングル』で注目を集めたドリー・デ・レオンも共演。静かで力強い余韻を残す一作。
2024年製作/115分/PG12/アメリカ
原題または英題:Ghostlight
配給:AMGエンタテインメント
劇場公開日:2025年6月27日
公式サイト:https://amg-e.co.jp/item/curtaincall/
『ヴァージン・パンク Clockwork Girl』
劇場公開日:2025年6月27日
『A KITE』『MEZZO FORTE』などで独自の世界観を築き、国内外から熱い支持を受けるアニメーション監督・梅津泰臣が、自ら企画・原作・キャラクターデザインを手がけたオリジナルシリーズ「ヴァージン・パンク」の第1弾。『魔法少女まどか☆マギカ』などを手がけたアニメーションスタジオ・シャフトとのタッグで贈る、少女の内面と欲望渦巻く未来社会を描いたバイオレンスアクション。
舞台は西暦2099年。医療用人工人体「ソーマディア」の発展によって、人類はあらゆる怪我や病を克服するが、その一方でソーマディアを悪用した犯罪が蔓延。政府はその対策として“バウンティハンター制度”を導入し、登録市民が指名手配犯を殺処分することで、高額の懸賞金を得られるようになっていた。
孤児院で育った神永羽舞は、過去の出来事から伝説的なバウンティハンター・Mr.エレガンスに強い嫌悪を抱きながら成長。やがて自らもバウンティハンターとなるが、ある日再び彼の姿を前にした瞬間から、羽舞の運命は大きく狂いはじめる──。
欲望、暴力、そして少女の葛藤が交錯する混沌の世界を、梅津泰臣の手によって鮮烈に描き出す。
2025年製作/日本
配給:アニプレックス
劇場公開日:2025年6月27日
公式サイト:https://virgin-punk.com/
外は雨模様、そんな時こそ映画館の静かな暗がりが心地よい。日常から少し距離を置いて、物語の中でひと息ついてみるのも悪くない。