2017.08.28

Vol.19 渋い東京

今見るべきBEST5


せっかくなら、多くの人にジョサイア・コンドル作品を見てほしい。ということで、野村さんに現存するコンドル作品の中から、おすすめの5スポットを選んでいただいた(弟子や後継者の作品を含む)。



①旧岩崎邸庭園(所在地:台東区池之端1
明治29年(1896)に三菱の創始者である岩崎彌太郎の長男、久彌が建てた岩崎邸の本邸。現存するのは、洋館・撞球室・和館の3棟のみ。洋館と撞球室はジョサイア・コンドルが設計した。

見どころポイント:実際の生活は和館でしていたと言われており、洋館は接客の場。和館と洋館の関係性に注目して見てみるとおもしろいと思います。弊社に残っている当時の計画図には、和館・洋館の両方の玄関が並んでいました。最終的にその案は取り入れられませんでしたが、靴を脱ぐ日本人の生活文化に寄り添おうとしたコンドルの考えが垣間見られます。(野村さん)

②旧古河庭園(所在地:東京都北区西ヶ原1
ジョサイア・コンドル最晩年の作品で、大正6年(1917)に竣工。古河財閥創業者古河市兵衛の実子、古河虎之助男爵の邸宅として建てられた。躯体は煉瓦造、外壁は真鶴産の新小松石を使用している。

見どころポイント:洋館の中に和室があり、それをコンドルが設計しました。天井がちょっと高いですが(笑)、すごくよくできていると感じます。(野村さん)

③静嘉堂文庫(所在地:世田谷区岡本2-23-1
岩崎彌太郎と岩崎小彌太の父子二代によって大正13年(1924)に設立された、和漢の古典籍を保存する専門図書館。設計はジョサイア・コンドルの思想を受け継ぐ桜井小太郎。

見どころポイント:静嘉堂文庫の敷地内には、ジョサイア・コンドルが設計した岩崎家廟があります。コンドルと桜井小太郎は一緒に仕事をしたことはありませんが、桜井小太郎も三菱合資会社内の建築設計部門の出身ですので、ジョサイア・コンドルの後継者のひとり。多少なりとも師匠の作品を意識して静嘉堂を設計したと思います。そんな師匠と後継者の関係を見てみるのもおもしろいですね。(野村さん)

④慶應義塾旧図書館(所在地:港区三田2-14-9
慶應義塾創立50周年を記念し、明治45年にジョサイア・コンドルに建築を学んだ愛弟子のひとりである曾禰達蔵と中條精一郎(曾禰中條建築事務所)の設計により完成。曾禰達蔵は、丸ノ内建築所在籍時ジョサイア・コンドルの指導下で旧三菱一号館の設計を担当した人物でもある。赤煉瓦と花崗岩によるゴシック様式の洋風建築は、慶應義塾大学を象徴する建造物のひとつ。

見どころポイント:震災や戦災による被害を修復しながら、慶應義塾大学が大切に保存している建物です。関東大震災の被害後、1階部分は煉瓦造だけれども、2階部分は鉄筋コンクリート造になっていたり、一部に擬石や煉瓦タイルが使われていたりします。見てもわからない部分ですが、煉瓦壁体内に帯状の鉄〈帯鉄〉を敷きこむなど、旧三菱一号館で考え出された耐震技術を慶應義塾旧図書館でも使っています。(野村さん)

⑤三菱一号館美術館(所在地:千代田区丸の内2-6-1
ジョサイア・コンドルが設計した明治27年(1894)の建物を忠実に復元し、2010年に美術館としてオープン。19世紀後半から20世紀前半の西洋美術を中心とした企画展を年3回開催。

見どころポイント:コンドルが得意とする正統的な西洋建築で、プロポーションが実にいい。1階、2階、3階と上の階にいくほど壁面の高さが小さくなっていたり、窓周りの装飾も細やかになっていたりします。これは建物を実物より高く見せ、目線を上にもっていくことで立派に見せる技術。ぜひ、明治時代に建てられたオリジナルの旧三菱一号館の写真を持って、現物と見比べて欲しいですね。(野村さん)

まとめてみた


私は建築の専門家ではないが、渋い建物を眺めるのが好きだ。今回、丸の内を歩いて感じたのは、時代や様式問わず、さまざまな建築を受け入れ、積み重ねていっている街は豊かだということ。まだまだ東京ではさまざまな事情によって、貴重な建物が惜しまれつつ、壊されている。そんななか、私は心から願う。東京の渋い建物よ、永遠にーーー。

(Text: Ayako Takahashi- TPDL
(Photo:Masashi Nagao)

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